あの山も風でとべる
* * *
「…あ」
彼はそこで目を開けた。
「夢か…」
視界には曇天の空が広がり、背中には芝生の地面を感じる。
ここは公園内の中央にある大きな池のほとりだった。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。ぼんやりと、空を見上げながら夢の余韻に浸る。幾層にも重なる雲の間に、まだ少女の悲しみが残っているような気がした。
「天使ねぇ」
ふと、視界の隅に白い何かが入り込んできた。
顔だけをそちらに向けると、一羽の小鳥が首を傾げながらこちらを見ている。人間が恐くないのだろうか。
試しに、そっと手を伸ばしてみる。
「おいで」
飛んで行くかと思ったのに、小鳥は少し迷う素振りを見せてから、ちょこちょこと近付いてきた。そして指をくちばしでつつき出す。
昼に食べたパンのくずが付いているのかもしれない。
「白い鳥…お前が天使だったのか。あはは」
くすぐったさに、思わず声が出る。
元来、センチメンタルな気分が長く続くような性格ではない。夢の内容などすぐに忘れ、目の前の小さな天使との戯れに夢中になる。
彼は、こんな風に自由気ままに過ごす毎日が好きだった。
釣りをしたり、絵を描いたり、同い年の漁師と海に出たり、パン屋の友達を手伝ったり…特に大きな変化はないが、ささやかな楽しみがある生活が、ずっと続けばいいと思っていた。
しかし彼の知らないところで、世界は動き出していた。
「あっ」
突然毛むくじゃらの動物が茂みから飛び出してきたかと思うと、指先にいた小鳥をサッと口にくわえ、そのままどこかに走り去ってしまったのだ。
あまりの一瞬の出来事に、彼はその場から動くこともできず、呆然とその後姿を見送ることしかできなかった。
「…あ」
彼はそこで目を開けた。
「夢か…」
視界には曇天の空が広がり、背中には芝生の地面を感じる。
ここは公園内の中央にある大きな池のほとりだった。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。ぼんやりと、空を見上げながら夢の余韻に浸る。幾層にも重なる雲の間に、まだ少女の悲しみが残っているような気がした。
「天使ねぇ」
ふと、視界の隅に白い何かが入り込んできた。
顔だけをそちらに向けると、一羽の小鳥が首を傾げながらこちらを見ている。人間が恐くないのだろうか。
試しに、そっと手を伸ばしてみる。
「おいで」
飛んで行くかと思ったのに、小鳥は少し迷う素振りを見せてから、ちょこちょこと近付いてきた。そして指をくちばしでつつき出す。
昼に食べたパンのくずが付いているのかもしれない。
「白い鳥…お前が天使だったのか。あはは」
くすぐったさに、思わず声が出る。
元来、センチメンタルな気分が長く続くような性格ではない。夢の内容などすぐに忘れ、目の前の小さな天使との戯れに夢中になる。
彼は、こんな風に自由気ままに過ごす毎日が好きだった。
釣りをしたり、絵を描いたり、同い年の漁師と海に出たり、パン屋の友達を手伝ったり…特に大きな変化はないが、ささやかな楽しみがある生活が、ずっと続けばいいと思っていた。
しかし彼の知らないところで、世界は動き出していた。
「あっ」
突然毛むくじゃらの動物が茂みから飛び出してきたかと思うと、指先にいた小鳥をサッと口にくわえ、そのままどこかに走り去ってしまったのだ。
あまりの一瞬の出来事に、彼はその場から動くこともできず、呆然とその後姿を見送ることしかできなかった。