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君に秘法をおしえよう

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正宗・友達



「この間はごめん」

 教育大学の正門を出てきた新庄に俺はあやまった。

 小ざっぱりとした綿シャツに見をつつんだ体躯は爽やかで、いつもラフなTシャツや、稽古着や制服姿を見慣れた俺には新鮮だった。

「よく、俺がここから出てくるって分かったな」
「おまえんちのオバさんに学部聞いて、シラバスを調べたら出てくる時間は分かるだろ?」

 そのセリフに新庄はニヤっと笑うと歩き出した。当然、俺も後を追う。

「おまえには美剣士がいるから、もう俺は必要ないだろ?」
「暁斗はそんなんじゃねえよ」

「じゃ、何だよ? ずいぶんと親しそうだったけど。あれだけの腕前のあるヤツが近くにいたんなら、俺と手合いする必要ねえもんな」
「あ、妬いてる?」
「ちげーよ、バカッ」

 赤い顔をして、新庄は口をへの字にした。

「あいつさ、従弟(イトコ)なんだ」
「え? 美剣士がぁ?」

「そっ。この前まで知らなかったんだけど、あいつの母親が死んで、身よりがなくなった、ってことで連絡してきたの」
「へー、なんかドラマみたいだな」
「だろ?」
「高原んちにいるの?」
「うん」
「じゃ、やっぱり毎日、手合いしてるんじゃん」

 なんだよ、まだそれにこだわるか?!

「してねーよ。だって、あいつ病気だもん」
「うそ、だってあいつめちゃくちゃ強かったんだぜ。なんかさ……怖いっていうか。あの殺気? 目の色、普通じゃないよ」

 新庄の声には、かすかな恐怖が混じっていた。全国クラスとなると流石に『気』には敏感だ。

「やっぱ、新庄もそう思った?」
「だって、そうだろ。おまえよくあいつに勝ったよな」
「妖術みたいなもんだからね。うちお祓い屋もやってますから」

「お祓いで勝てるのかよ。あの殺気に」
「勝てたんだから仕方ない」
「くー腹立つなぁ、その余裕。それより、美剣士、病気って何の病気だよ?」
「ちょっとした胃潰瘍とか……(他にもあるけど……もにょもにょ)」
「いかいよう? なんかヘン!」

 新庄は怒ったように叫んだ。それも立ち止まって。

「なんで?」
「あんなお化けみたいなヤツが、繊細な人間に多い胃潰瘍になるなんてヘン」
「お化けみたいって…… 暁斗、めちゃめちゃ繊細だよ。ガラスの心だよ」

 ―と、言いながら、今朝の暁斗を思い出すと、ちょっと悪魔かも、って思いもなきにしもあらず。

「俺にはそうは思えない」

 あー、そうだよな。暁斗の複雑さを新庄に説明できないよ。負の気を操り、また操られて剣に込めることが出来る力。だけど、その力自体に自滅していく体。そして繊細であるゆえに気の影響をモロにかぶる性格。

「あ、暁斗の話は、とりあえず置いておいて。今日は手合いの日を決めようって思ったんだけど」

 そう言うと新庄は、ちょっと困ったような顔をした。

「う……ん」
「何か用事ある?」
「……そうじゃないけど……、最近、色々考えることあって」

 ここで新庄は通りに置いてあるベンチを指さして、座るように促した。いつの間にか、俺たちは、公園通りに来ていたようだ。

「オルタナティブ・スクールって知ってる?」
「オルタナティブ・スクール? 代替医療のことオルタナティブ・メディスンって言うけど、学校?」

「既存の学校システムに沿わない教育カリキュラムを実践している学校のこと。モンテッソーリとかルドルフ・シュタイナー学校とか、知ってる?」

「ああ。そうなんだ。それってオルタナティブ・スクールっていうんだ」
「さすが物知り。オルタナティブ・スクールのこと知ってる奴なんてそういない」
「そお?」

 精神世界では有名だよ。ここ何十年か『インディゴ・チルドレン』がたくさん生まれはじめて、もう既存の教育システムでは対応できないって話が出ている。霊能力を持ったインディゴには、モンテッソーリやシュタイナーのような霊的なアプローチに元づいた教育じゃないとおかしくなってしまうんだ。


「そこの教師になりたい、って思ってるんだけど、色々と調べれば調べるほど、奥が深くて。もっと、もっと勉強しなきゃ、って思うんだ」

「へー」

 それから、日本の教育問題やらオルタナティブ・スクールの中味やらを、熱心に話しあった。こんなにお互い話しをしたのは、初めてじゃないかな、ってくらい。

 俺も暁斗も、インディゴの部類だから今の教育制度には本当に苦労している。興味のない詰め込み授業が、どんなに苦痛か、分かってほしい。母さんや父さんには、それが分からないんだ。


― 好む、好まざるのかかわらず、すべて頭に詰め込まなければならない。このように強要されることは絶大な抑制効果を生む。終了試験に合格したわたしは、その後まるまる一年間、どんな科学的問題を考えるのも嫌になってしまったのである。 アルバート・アインシュタイン ―


「そっか、その学校の教師に新庄がなりたいなんて、はじめて知ったよ。
手合いをする気がなくなったの、分かるな。俺も凝り性だから、やりたいことが出来たら突っ走っちゃいたいんだよね。いいよ。手合いは、しばらく休もう」

「でもなぁ……」
「また、きっとやりたくなるから大丈夫だよ。お互い、基礎練習だけはしておけばいいじゃない?」
「……うん。そうだな」

 新庄はちょっと申し訳なさそうに笑った。分かるよ、実戦から遠ざかる不安な気持ち。でも、人は変わっていくんだ。興味のあること、好きなこと。その時にエネルギーをかけるものが変わっていくていうのは自然なことなんだと思う。

作品名:君に秘法をおしえよう 作家名:尾崎チホ