君に秘法をおしえよう
正宗・現実と理想
寝返りを打って目を開けると、目の前には眠る暁斗がいた。
『え?』
一瞬訳が分からなかったが、すぐに記憶が戻った。そうだ、昨日、レイキをやった後で倒れてしまったんだ。どんなに強いエネルギーを浴びても、今まで倒れたことなんかないのに、なんで昨夜に限って耐えられなかったんだろう。
それより。
この状況、どうしましょう?
じっと暁斗の寝顔を見ながら悩む。同じ布団の中、ピタリとくっついた体、そして、すぐ隣には綺麗な暁斗の顔。この超おいしい状況を、このままにしておくのは男としてどうよ? せめてチューくらいはせねば。
その瞬間、暁斗がパチリと目を覚ました。
『@☆■○%!!!』
「あ、おはよう」
「……おはよっ」
急いで身を起こした。心臓がっ……どきどきしてるっ。あーびっくりした。
「昨日は驚いたよー 正宗、急に倒れちゃうからさ。大丈夫?」
「う、うん。も、大丈夫」
「ほんと? 」
「ほんと。あ、暁斗こそ眠れた? 狭くて寝にくかったんじゃないの?」
「大丈夫だよ。正宗と抱き合って寝たから」
「へ?」
俺はめちゃくちゃヘンな顔した……と思う。
「まじ?」
「まじ。結構、気持ちよかったな」
「うっ」
俺は両手で頬の横を押さえた。心の動揺が隠せなかったから。
俺は絶対に眠っていた。何もなかった。いや、何かあるより抱き合っているほうがエロいじゃないか。
それより、暁斗の意地悪が気持ちよくて、別の意味で興奮してくるのが困るんだよ。背中が……下半身が……
「どうする? 続きする?」
「え、や、あの……わわっ」
迫りくる暁斗に後ずさりして……ずるりとベッドから落ちた。なんか、すっごいカッコ悪い。
「もう。大丈夫?」
「うー」
一緒に落ちた上布団をかきわけながら立ち上がった。棚にあったメガネをかける。それを暁斗が小悪魔のような顔でじっと見つめていた。なんか……俺からかわれてる? よね? いつもと立場、逆だよね?
「続きは帰ってからにします」
「じゃ、楽しみに待ってます」
くー! 精一杯、言ったセリフを、さらり、と返されてしまった。うー、恋愛経験値、あっちのほうが上だよっ。
何だか分からないけど、悔しいー!!!!
俺は、すごすごと自室に帰った。てか、中途半端なコレどうしてくれんだよー
基本的に、術者はセックスは少なくするように言われている。それは、精力は気力の元だから。精力を使いすぎると、術も当然、出来なくなるんだ。
術者はレベルが高くなるほど自然と、清く・正しく・美しく、タカラヅカのモットーのような、生活ができちゃう。だもんで、術者が普通の恋愛から遠ざかるのは仕方ないんだ。
好きな相手ができてもセックスなしに付き合うって、かなり不自然だからね。
けど、お互いにレベルが高くなれば、話は別。
『接して漏らさず』っていう仙道の教えがある。『お互い一つになって、エネルギーの交換をするんだ』って思って、抱き合うだけでも、ものすごいエクスタシーらしい。
それが出来るカップルは、いつまでも若くいられるそうだ。俺は今までそんな体験はないけど、憧れている。
―と、あれ?
昨日のは、そのエネルギー交換の変形だったのか? えーと、レイキのせいでぶっ倒れたと思っていたけど違うんか? その後、何かあったけ? 暁斗が笑ってて、俺も楽しい気分になって……それで? うーんよく分からない。しかし、なんで暁斗は何でもなかったのに、俺だけぶっ倒れたんだろう。
作品名:君に秘法をおしえよう 作家名:尾崎チホ