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たぬき小僧

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 ある若い衆が言いました。するとさっきのおじさんが首をかしげています。
「おめえ、見かけんツラだな。どこの家のもんじゃ?」
 すると別のおじさんが大声を上げました。
「あーっ! こいつの尻にシッポが生えてる!」
 そうです。ポン吉は若い衆に化けていたのでした。
 変装をみやぶられたポン吉はまたタヌキの姿に戻って逃げ始めます。
「待てーっ! いたずらタヌキめー!」
 村人たちはさっきよりもカンカンです。
ポン吉は今度は、走りながら木の葉を拾うと、後ろに投げました。するとどうでしょう。それはたちまち大判小判に大変身。
村人たちはわれ先にと大判小判をうばいあいました。
「これはおれのだー!」
「何を言う、おれのだー!」
 このすきにポン吉はどんどん先に逃げました。
 でも、しょせんは木の葉のお金です。大判小判はすぐに木の葉に戻ってしまいました。
「あーあ……」
 村人たちはしょげかえっています。
「何もかも、あのタヌキが悪いだ!」
 一人の村人が言いました。するとみんなも口々に「そうだ、そうだ」と言って、ふたたびポン吉を追いかけ始めました。
 ポン吉が寺の階段をかけ登っていくのが見えます。
「やつは寺へ行くぞ!」
 村人たちも後を追いました。

 寺にたどりついたポン吉は和尚さんに頼みました。
「和尚さん、お願いです。どうかおらをかくまってください」
「ははーん。さてはお前だな。最近、村を騒がせているいたずらタヌキというのは」
「はい。もう二度といたずらはしません。後生ですからかくまってください」
 ポン吉はもう泣きそうです。
「本当に二度といたずらはしないと誓うか?」
「はい」
「じゃあ、小僧に化けてみろ」
 ポン吉は和尚さんに言われたままに小僧さんに化けました。
「ふむ、なかなかよく化けたものじゃ。それじゃ、この仏像に向かって南無阿弥陀仏ととなえなさい」
 ポン吉は両手を合わせると、目の前の仏像に向かって「南無阿弥陀仏」と言いました。
 そこへ村人たちがやってきました。
「和尚さん、ここへタヌキがやってきただろう?」
 村人の一人が和尚さんに詰め寄りました。小僧さんに化けたポン吉は震えています。
「なんじゃね、騒々しい。タヌキなぞ、こんわい」
 和尚さんはあわてもせず答えます。
作品名:たぬき小僧 作家名:栗原 峰幸