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秋の掌編+短歌

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赤色



その風景を見た時、わたしは一人だったのに思わず「うわあ」と声をあげてしまいました。短い坂をのぼりきって池の畔に出てすぐです。池の向こう側に小高い丘が広がっており、モミジの紅い色と黄色が眩しいほどでした。そして池に映るやや色をくすませた紅葉もまた味があって、その風景を見ながら (あ、この気持ち……) と、乙女だったあの頃と、先輩のことを思い出してしまいました。

野球部の投手として、人気のあった先輩は、わたしも好きだった。神様に気持ちが通じたのでしょうか、先輩は友達と談笑しながら高台にある学校からの道を降りてくるところでした。わたしは忘れ物をとりに教室に戻る途中だった。もしかしたら先輩の顔を見たさに忘れ物をしてしまったのかもしれない。先輩の野球をしている姿を思い浮かべながら、わたしは歩いていたのだから。

向こうから歩いてくる先輩の笑い顔と真っ白い歯が眩しく感じられ、近づいて行く時にはわたしは下を向いておりました。あのひとの影が動くのを見ながらすれ違う、ただそれだけのことに、わたしの胸はドキドキしていたのでした。


   遠くから 目を惹くあなた 眩しくて
       池に映るを そっと見るだけ 

      
作品名:秋の掌編+短歌 作家名:伊達梁川