秋の掌編+短歌
桃色
男だけの兄弟で育った僕は、寝間着といえばパジャマしか知りませんでした。まして母親もピンク色のものなど着たことがなかったのだから。これを感動というのでしょうか。でも、もうそれ以前に、君の部屋に入った時から僕は感動していたのです。決して女性の下着マニアや下着泥棒のような者ではないと断言したうえで、軒先のハンガーに吊されている本当に小さな小さな下着を見た時にくすぐったいような感動を覚えたのです。
小さくて愛しいもの。小さくて愛しい君。なぜか僕はいつもより口数が多くなって、冗談ばかり言っていた。君の転がるような笑い声を聞きながら頬が痛くなるほどの幸せを感じていました。
君の家のお風呂では、おそらくニヤけた顔で入っていた筈です。少しの緊張をもちながら。少しずつ無口になっていくに従って二人の距離は近くなってゆき、いつしか抱き合っていました。そして、感動でもあり邪魔ともいえるそれを君はゆっくりと脱ぎ捨てた。
脱ぎ落とす 愛しき君の 薄ごろも
桃色艶めく 落ちてもなお