ハロウィン神戸
遠くから来た拓夫と裕美子が知ってるのは三宮、元町、中華街、異人館ぐらいだった。どれも観光雑誌で紹介されているスポットだ。
中華街に行くと中国人の観光客がたくさんいた。
わざわざ日本に来てこんな所に来なくてもいいと思うのだが、日本人もロスとか行くとジャパニーズ村を見てしまう。心が落ち着くのであろうか。
特に変わった食べ物も見つけきれず、いい店がないかと拓夫は大阪の友達に電話を入れてみた。
紹介されたのは夜景が見える居酒屋で、先ほどのホテルに近いところにあると言う。
またタクシーに乗り込み雨の神戸の街を走った。そして神戸ハーバーランドのキリンの像が立つビルの前で降りた。
このビルの18階に和食ダイニングの店があると言う。
さっそく拓夫と裕美子はエレベーターで上がった。
薄暗い店内は神戸の夜景が見えるようにセッティングしてあるのだろう。
靴を脱いで通されたテーブルからは散りばめられた宝石が漆黒の黒い絨毯の上で輝いていた。
目の前には今日泊まるホテルが海に浮かぶクルーザー船のように綺麗なブルーの光で包まれていた。
「わぁ~きれい」裕美子は思わず声に出した。
「あ~、あそこが僕達のホテルだ」
拓夫は、あのブルーの宝石箱の中のベッドで絡み合う自分達を想像してみた。
客観的に遠い所から見ることで、本当に今夜が結ばれる日となるのか不思議だった。
別に今までどおりでもいいのだが、もっと何かを手に入れたいと思う欲求もあった。
目の前の笑顔が肉体関係を持つことで壊れそうな不安、親密と言う言葉はどこからどれくらいの線を引いたところにあるのだろう。
とりあえず自然の流れに任せるしかしょうがない。変にいじれば何かが壊れそうだと言う不安感も拭えなかった。
料理はおしゃれで品があった。でも、何よりのご馳走は輝く夜景だった。
話題はもっぱら、この店を紹介してくれた男の片思いの裏話で盛り上がった。
陽気に笑う裕美子と拓夫は、この後の緊張するであろう時間を予感していつもより笑いあった。