ハロウィン神戸
「歩いて帰ろうか」裕美子が言い出した。
1階の玄関口に降りてくると雨は小降りになっていた。
ここからは、多分歩いて15分ぐらいだろう。海沿いをぐるっと廻って歩けば到着するはずだった。
「手をつなごう」裕美子は拓夫の手の平に重ねてきた。
ひとつの傘でお互いの肩が濡れないようにかばいあいながら歩いた。海風が裕美子の髪の毛を揺らし、拓夫に官能的で甘い匂いを届けた。
「ねぇ、裕美子、来てよかったね」
「うん・・」
「今から僕達のお城に帰るんだけど、何をするお姫様」
拓夫が裕美子の顔を向いて聞く。
「ううん、なにもしない・・・何かあるの?」笑いながら裕美子も拓夫の顔を見る。
「仮面舞踏会」
「えっ、なにそれ?」
「部屋に帰ると二人きりで仮面舞踏会をするんだ。ハロウィンだろ今日は」
「わぁ、楽しみ~。まかせるわね。今回は全部まかせる事にしたんだから」
「どうなっても?」
「・・・う~ん、どうなってもか・・ちょっと考えるな」
「何を考えるんだよ・・・もしかしてエッチなこと考えてた?」
「・・・ううん、別に・・・」裕美子は笑って、言い当てられたことをごまかした。
先ほどの和食ダイニングのあるビルから、ぐるっと廻ってホテル側の波止場に到着した。
目の前に見るホテルは巨大なクルーザー船のようだった。
回転ドアをくぐり、吹き抜けの中を上がるエレベーターに乗り込み、また二人の部屋に戻ってきた。
電気をまだつけぬ暗い部屋に入ると、レインボーに輝く観覧車が窓の正面に見えた。そして周りにはビルの宝石の輝き。
「わぁ、きれい」今日何度目の裕美子の言葉だろう。窓際に駆け寄った。
窓に手をつけて外を見る裕美子の背中に拓夫は後ろから近づくと、裕美子の腰を両手で巻くように抱いて、尖ったあごを肩に乗せた。
裕美子の髪が拓夫の鼻先をくすぐる。また甘い匂いがした。
二人で窓の外で七色に変わる観覧車を何も言わず黙って見た。
裕美子は自分の鼓動が早くなるのがわかった。しばらく誰にも触らせなかった身体を拓夫の両手が締め付ける。
嫌じゃない気持ちと恥ずかしさが交差する。
耳元で拓夫の息遣いが聞こえる。そんなにうなじに口元を近づけられたら変な気になってしまう・・・と思った。
体が緊張するのがわかった。