ハロウィン神戸
正直、裕美子は胸が小さいのをコンプレックスにしていた。
拓夫はそれほど気にしてないのだが、あまりにも反応がおもしろい為よくからかうことにしてた。
熟年と呼ばれる年代でいちいち身体の隅々を指摘されたのじゃたまったものではない。
男だったらハゲに皺に白髪、中年太りの腹。女だったら皺、たるみに同じく膨らんだ下腹。
バストが小さい事はそのうちの一つであり気にするほどでもないのである。
しかし女は、顔のしみ消しや、皺隠しをしていくらかでも若く見せようと努力する。
きっと好きな男に失望されない為のささやかな努力なのかもしれない。拓夫はそんな裕美子が好きだった。
裕美子は笑いながらベッドから離れると、バルコニーの方に歩いた。
拓夫はベッドに横たわり、窓の外にいる裕美子を見た。
風に揺れるストレートの髪、細い腕に細い足、果たして一夜を過ごすことで彼女のすべてを征服できるのだろうか?
何を望んでいるのだろうか?
欲望をぶつけ合うこと?願望を叶えること?愛を確認しあうこと?
それはひとつになることで手に入れることが出来るものだろうか?
違う気がする。
もっと違うものを求めている自分がいる。それは何?
拓夫は手に届かぬものの正体を知りたかった。裕美子と一晩を過ごすことで何かがわかる気がした。
肉体関係は目的じゃない。心の満足感?それは肉体の向こうにあるかないかわからない。
それは何?
埋めきれないパズルのピースを探し出すように追い求めている自分を拓夫は感じていた。
確かにさっき、裕美子を抱きしめた時チラリと見えたような気がしたのだが・・・
つかめそうでつかめないものを人間は欲しがる。
そのつかめそうと思うものはいったいなんなのか・・・・
拓夫はバルコニーで海を見る裕美子を見て、ぼんやり考えた。
「4時だよ」
拓夫は裕美子の声に起こされた。眠ってしまってたらしい。
「エッ、寝てたの?起こしてくれてよかったのに」
「いいの、ずっと寝顔を見せてもらったから」
「なんだか恥ずかしいなぁ~」
外は雨がしとしと降っていた。
「神戸の町に繰り出そうか?」
「うん、お腹すいた」
出かけようと身支度を整えた裕美子に、拓夫は「これっ」と言って差し出した。