ハロウィン神戸
裕美子と目が合った。
すでに少年や少女はとうに卒業してる熟年二人なのに、あの頃のようにドキドキした。
裕美子もベッドに横になる拓夫を見て、少なからず男を意識してしまったのだ。
私はこれからこの人とどうなるつもりだろ・・・明確な設計図は何一つ描いていない。
ただ、一緒にいられることが楽しいと思っている自分がいることはわかっていた。
拓夫が両手を広げ、呼び込むように催促する。
「なによ~、いやらしいわよ」
「いいじゃないか、おいでよ」
「だめ、まだ早い」
「抱きしめたいだけだから・・・」
その言葉に誘惑されるように裕美子は拓夫の胸に顔を預けた。ベッドが二人の重さで小さな音を軋ませる。
裕美子の重さを体で感じた拓夫は、優しく裕美子を包み込んだ。
すぅ~と息を吸い、裕美子の重さとこの現実の重さを受け止める。
「ずっと抱きしめたかった~」
拓夫の本音が出た。
裕美子は聞こえないように「あたしも」と心で言った。
暫くの間二人はそのままの状態で抱き合った。長い間の葛藤がゆっくり溶けるように流れ出す。
自然と二人の指は絡み合い、ちょっと汗ばんだぬくもりが裸の二人が抱き合うのを連想させた。
「会いたい」「抱きしめたい」「キスをしたい」「ひとつになりたい」
どれだけ我慢して、欲望を抑えてきたのだろう。でも、だから、今がある。
欲望にまかせた激しさはいつでもできる。
この押さえた感情が深い好意になり得たのは、今までの葛藤を押さえ込んできたからであろう。
温かいものが胸にこみ上げてきた。これが人を好きになることなのだろうか・・・
裕美子は頭を起こして拓夫の顔を見た。
数センチの所に拓夫の顔がある。こんなに近づいたのは初めてだ。拓夫に限らず、他の男でも最近はなかった。また心臓が速打ちする。
「聞こえてるよ」拓夫が言った。
「エッ、何が?」
「鼓動・・・速い・・・それと・・・・胸が小さい・・」
裕美子は慌てて、拓夫からの体を引き剥がした。
「やだ~、知ってるくせに・・・・」照れ笑いしながら裕美子は拓夫の胸を叩いた。