ハロウィン神戸
拓夫はビールを飲みながら室内を見た。
20畳ほどの広い室内には落ち着いたベッドカバーで覆われたセミダブルのベッドが二つ並んでいた。
インテリアは派手でもなく、地味でもない。落ち着きのある上品な空間を造っていた。
改めて見るとベッドが中心で、それ以外は備品のようなものだった。
座り心地がよさそうなソファーが2台、ガラスのテーブルが1台、壁には38インチのテレビが据えてある
バルコニー側から見ると一番奥の左側、つまり入り口のすぐ横が洗面、シャワー室のようだ。そして向かい側にクローゼット。
裕美子はシャワー室の扉を開けると大理石のフロアーに驚いた。
白く薄めのグリーンがかった磨かれた石は高級な感じがした。
「わぁ~きれい」2度目の感動だった。
大きなバスタブを見つけると裕美子は拓夫に
「ほら見て、大きなバスタブ。後で泡風呂にしようね」と言った。
「一緒に入ってくれるの?」冗談で拓夫は聞いてみる。
「まさか~」
ホントにまさかなのだろうか、拓夫は二人で入る場面を想像した。
「ヘッドマッサージならしてあげるよ」裕美子が言う。
「それはいいなぁ~。でも、ちょっと恥ずかしい」
「大丈夫だって、慣れてるから・・」
拓夫は裕美子が前の旦那にそうしていたのかなと、少し考えたが、振り払うかのように暗い嫉妬を吹き消した。
「じゃ~、お願いしようかな」
チラリと見える過去が、いいスパイスなのだろうか、現れては消える妄想に笑わずにいられなかった。
ひと通り、部屋の中をチェックすると海側の方のベッドに拓夫は寝てみた。枕は大きくふかふかで頭が沈みそうだった。
二つの枕を重ね頭が持ち上がるようにすると、窓の向こうは高層ビルの頭と空しか見えなかった。
空に近いベッド。ここで起こりうる物語はどんなことでもドラマなるような気がした。
期待と不安が入り混じる親密な空間とベッドは怪しすぎて、迷宮の館に踏み入れた気にでもなったかのようだった。