ハロウィン神戸
広めのバルコニーには籐のテーブルセットが海の強風で飛ばされないように細いワイヤーでつながれていた。
拓夫もつられて、気になるベッドよりもバルコニーへ歩き、手すりから半身を乗り出した。
広い空と海。遠くには高層ビル群が積み木のように見える。
綺麗な絵葉書のような風景がバルコニーの外に広がっていた。
かもめが眼下を飛んでいる。まだ出港したばかりで帆を張らぬヨットが白い航跡を残して滑る様に動いている。
斜め下真向かいの岸壁にはショッピングセンターだろうか、丸い観覧車が設置されて遊園地のようだ。
まるでニューヨークの川岸のような景色が目の前に広がっていた。
係留されている遊覧船もそばで見れば大きいのだろうが、二人の秘密の部屋から見る船は小さくかわいいおもちゃのように見えた。
二人で顔を見合わせると自然に笑みが出た。
先ほどまでの暗い淫靡な夜の秘め事の想像はどこかに消し飛び、いつもの明るい二人に戻った。
リゾートのような部屋がいっぺんに二人に太陽を運んできてくれた。
「ビールが飲みたい」拓夫はすぐそう思うと、口から言葉が出た。
「取って来る」裕美子はもともとよく気がつく女だから、聞いたときにはすぐ部屋の小さな冷蔵庫の方に足を向けていた。
冷蔵庫の中にはいろいろな飲み物があった。
ビールを選ぶと裕美子はバルコニーで気持ちよく海と雨の湿った風を感じてる拓夫のそばに歩み寄り渡した。
拓夫はビールのプルトップを引き、プシューと開ける。
そして「乾杯」と言った。
「なんに乾杯なの?」
「僕達二人に」
「あら、どうして、なにかあったの?」含み笑いをした裕美子が拓夫を見て聞いた。
「いやまだ、ない・・けど・・。これからに乾杯なのさ」
その言葉の交わす意味は二人ともわかっていた。
裕美子も拓夫もベッドの上で起こるであろう事を予感していた。しかし、まだそこにはたどり着いてないことも知っていた