ハロウィン神戸
10月31日の神戸は雨が降っていた。
午後2時にチェックインしようとしたフロントは「まだ早すぎるんですが」と言って、空き部屋を探してくれた。
スーペリアのランクアップを望むなら今すぐ部屋の方には通せると言う。
「海が見えて、最上階の方ですのでお気に入りになられると思います」とフロントマンは言った。
拓夫は海が見えると聞いてすぐそこでいいと返事をした。
磁気カードのカギを貰うと少し緊張して後ろで待ってる裕美子を呼んで、エレベーターに向かった。
ホテル内の10フロアを貫通させた吹き抜けを見やりながら、二人は最上階の部屋に向かった。
この日は会った時からいつもより緊張していたが、これから夜を二人きりで過ごすことになるだろう部屋に向かう廊下を歩く毎に心臓が早打ちした。
いつもの二人の笑い顔も、今はどこかぎこちなく初めて会った時の様に緊張していた。
緊張をごまかす為に拓夫はインテリアのことを言うのだが、なぜか嘘っぽく聞こえる。
裕美子も聞いている様で聞いてないかのようだった。完全に足が宙に浮いていた。
拓夫は指定された部屋番号を確認すると磁気カードを差込口に入れた。
カチャリと音がする。
それは、今まで秘密にしておいた隠し部屋を開ける音だった。
平静を装い、ドアのノブを回し少し力を入れて押した。
ドアの向こうには真っ白な広い空間が広がっていた。これからの二人の新しい世界の始まりの入り口だった。
この先には何があるのかわからない。
幸せになる道なのか、切なさで心痛くなる道なのか白紙で敷かれた道の扉を二人は開け、一歩を踏み出した。
部屋が白く見えたのは、窓から雲が見えたからだった。
雨は少しやんで雲の切れ間ではないが、太陽に後ろから照らされた雲が白くまぶしく光り、ゆっくりと海の上を流れていた。
海の色は天気が悪い割にはグレーではなく、青とグレーが混じった中間の色をしていた。
雲の色を写し込んだではなく明らかに海の色だった。
「わぁ~ すご~い」
裕美子は、部屋の真ん中にある二つ並んだベッドの脇をすり抜けて、窓の外のバルコニーに走り寄った。