ハロウィン神戸
遊びじゃないかもしれないと感じた時から、二人の意思は決まっていた。
だから簡単には肉体関係にはなれなかった。
ただ、真剣なだけになかなか、きっかけもつかめないで時間も過ぎていた。
「ハロウィンの10月31日に予約しました。当日はお互い仮面を被り仮装を楽しみませんか?
仮装ならばなんでも大胆に出来るかなと思って。ホテルは神戸のメリケンホテルです」
拓夫のメールが1泊旅行の誘いだというのに裕美子は時間はかからなかった。
紹介されて知り合った時からメールを交わし、デートの約束もしたが「泊まり」の約束は初めてだった。
とうとうここまで来てしまった・・というのが裕美子の気持ちだった。
もう十分絡んだ紐は解けたのであろうか?
まだ塗り終えていないブロックはどうしたらいいんだろうか?
不安と期待が交差した。
また急いで失敗するんじゃないだろうか?
裕美子は拓夫から送られてきたメール表示をじっと見つめて、返答を考えた。
「仮装パーティは二人きりでするのですか? だったら行けそうな気がします」
裕美子自身、大胆な返答だと思ったが動き始めた列車に飛び乗る覚悟をした。
後押ししたのは数日前の拓夫の昔話の中にあった。
電話での会話の最中、拓夫は昔のクリスマスの思い出を話したのだ。
悪気はないのだろうが相手が誰だか想像がつく。楽しく言われるほど半分妬いていた。
男にとっては取るに足らないことでも、女からすればカチンとすることがある。それが悪さを含んだ言い分でないだけ怒る相手を見失ってしまう。
しかし、心のどこかに嫉妬心が残っていたのであろう。
裕美子は、実は彼もそれも計算してたのかなと思いながら承諾の返答をしてしまった。