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バイバイ(コスモス3)

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 おい、誰かラーメン食わねぇかと、祐輔は他の連中に声を掛ける。数人が、その誘いにのったようだった。俺は、ジャージを袋に丸めて詰めると、そのまま部室を出た。
 家は、自転車で十分ほどのところにある。自転車置き場で自転車を取ると、ところどころにしか電灯のない暗い歩道を、のんびり自転車を漕いだ。
 住宅街であるこの通学路は、朝も夜もとても静かだ。このあたりは俗にいう高級住宅地だそうで、大きな庭のある家が並んでいる。五分ほど漕いだときに、自転車のブレーキをかけた。
 日本庭園の広がる、和様式の大きな邸宅。なんとなく近寄りかたい雰囲気があって、威圧感を感じる。ここが高橋椿の家なのだと教えてくれたのは、祐輔だった。夏の終わりで、そのときもこんな風にクラブの帰り道だった。
「あの日本風な家あるじゃんか。あれ、高橋の家なんだぜ」
「マジで?」
 俺はかなり驚いた。あのフリフリないかにもメルヘンの世界を意識した高橋椿の家が、まさかそれには似ても似つかないこんな厳格な和様式だとは、見当もつかない。
「家でも、相当な邪魔者扱いみたいだな」
 祐輔のその言葉は、俺にも納得できた。彼女は、あの家には似つかわしくない。
 家でも学校でも排除の対象にされるというのに、それでもロリータを貫き通そうとするあの強さは、一体どこから来るのだろう。あんな小さな身体のどこに、そんな力があるのだろう。


 高橋椿は、相変わらずぼーっと空を眺めていた。授業中も、ノートこそ開いているものの、授業はまったく聞いていない様子だ。そんな高橋椿を見ていたせいで、数学の時間突然当てられて答えられなかった。「おまえ、何考えてんだよ」という先生の言葉に、「翔やらしーぞ」などというからかいの声が飛んできた。俺は少し図星で、苦笑するしかなかった。高橋椿の方をちらりと見たけれど、彼女は何の興味もないようで、やっぱり外を見ていた。
 毎日毎日、何を見ているのだろうかと思って高橋椿の方を再び一瞥すると、彼女は窓を見ていなかった。彼女の視線は、窓側の一番前…コスモスの花が活けられた机を見ていた。
 あの席は、もともとタカやんの席だった。今も、であるけれど。