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バイバイ(コスモス3)

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「おまえさ、今高橋椿のこと見てなかった?」
「え」
 突然、祐輔にそう指摘されて、俺は何て返せばいいかわからなくなった。
「何、おまえ高橋椿に気があんのか」
 ケラケラと三人が笑い出す。馬鹿にされているんだということがわかって、かーっと恥ずかしくなった。
「ち、違うよ」
 大きな声ではっきり云い切った。
「なんで、あんなへんてこな格好してるヤツなんか」
 あーぁ。
「そうだよなぁ」
 本当はそんなこと云いたくないのに。
「アイツ、まだ飯食ってんぜ。トロいよな。ロリータって全部あんなんかな」
 そう、トロいトロい。手を叩いて笑う英二。それに相槌を打って笑う健太、祐輔。俺も同じように笑いながら、視界の隅でちょっと高橋椿を盗み見た。相変わらずフォークを持つ手の存在を忘れて窓の外をぼーっと眺めている。こちらの会話にはまったく気付いていないようだった。それを見て、俺はちょっとほっとした。そして、ちょっと胸が痛んだ。
 みんなが否定するものを、一人で肯定するのはとても難しい。
 ガタンと大きな音がした。佐々木雅恵が、高橋椿の机に思い切りぶつかっただろうことは、その瞬間を見ていなくてもわかった。偶然じゃない、故意的に。
 ぶつかった衝撃で、食べかけていたウィンナーが床に落ちていた。佐々木雅恵が「やだぁ、汚い」と、わざと大袈裟に云った。高橋椿は何も云わずに、下に落ちたウィンナーを拾った。
「うわぁ、出たよ、佐々木のいびり。アイツ、すげぇ高橋椿のこと嫌ってるもんな」
 拾ったウィンナーをお弁当箱の蓋の上に置いて、気にしている風もなく、高橋椿は再びお弁当を食べ始めた。
 それでさぁーと、英二が少年マガジンのグラビアの話を始めた。その話を、半ば聞き流しながら、時々高橋椿に目をやった。彼女を取り巻く、あのほんの小さな空間は、周りが侵せない独特の空気が流れていた。


 陸上部の練習は、いつも七時に終わる。夏の間なら明るかった空も、冬の今は真っ暗で、カラカラと冷たい風が肌に痛かった。
「翔、今日天下一品寄ってくか?」
 同じく陸上部である祐輔が、練習が部室で聞いてきた。
「いや、今日は帰るわ。俺、数学の宿題まったくやってねーし」
「真面目だよなー、翔は」