故障
小男
昼下がり。
人通りのまったくない裏道にかなり入った袋小路に小男が一人。身長はせいぜい150cm程度。頭を剃りあげたこの男は子供のようにチビで、機嫌良さげで、そこに独りで佇んでいる。ふかしたラッキーストライクの煙がヘタクソな円を描いている。その煙の輪が小男の機嫌の良さを表していた。ジーンズの尻ポケットに差し込まれた長財布の厚みの様子から、競馬か競艇にでも勝ったのであろう。まだ少し早い季節はずれのジャンパーのポケットに突っ込んだ左手の指は、ポケットの中で何かを確認している様子だった。
ここは誰も来ることのない裏通りの袋小路。こんな所まできてワザワザほくそ笑んでいるのかと尋ねたくなるような小男の笑顔である。虚ろな瞳は吹かした煙輪がゆるやかに崩れてゆくのを眺めている。一瞬、その瞳を瞼が隠した後、そちらに視線をやったのは誰かの気配を感じたから。誰か来る。女だというのはヒールの音で分かる。
小男はなぜだか反射的に電柱の影に姿を隠した。取りあえず、やり過ごそうとしただけだった。隠れなければならない理由などは何も無かったが、反射的にそうしてしまっていた。小さな体は電柱の影にスッポリと納まっている。ただ顔にこびりついた表情がとれずに困っている。小男はそんな浮かれた顔を、見知らぬ女に見られたくはなかった。
小男は御機嫌であった。