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故障

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 オペレーター



 工場内は騒がしい機械音で満たされている。
 安定感のある低い振動音と、その後のヒステリックなノイズが交互に2回往復した後に別の打撃音が1つの工程の終了を表し、機械後部を通り過ぎたその製品は次々とローラーの上を走りはじめる。
 材料注入を終えた容器はローラーの上を走りだすと、奥の部屋に向かって進んでゆくのだが、ある個所まで進むとそこにはパートのオバサンが待ち構える。製品のチェックを任されているこの二人のオバサンの、検品作業のなんと素早いこと。
 そして、この二人を過ぎれば商品は隣の工場に流れてゆく。
 流れだす夥しい数のその既成品を、赤い帽子のオペレーターも注意深く見守っていた。

 赤い帽子の小柄なオペレーターはこの鉄の塊がとても気分屋なのに長年悩まされてきた。かなり古い装置だから当然なのかもしれない。経験と勘だけで古い機械の調子を察知してやらなければならなかった。ちょっとした拍子で機嫌が悪くなり、1つの容器に2つの材料を注入してしまったり、1つも入らなかったり。そうなると修理、点検、メンテナンスなど、とにかく手間がかかってしまう。それもそうなのだか、赤帽の小柄な男を悩ませている根本的な理由はというと、この機械のオペレート等が他の誰にも出来ないということであった。もしも休日前にでも機械が止まれば休日返上は必至。このところは機械の調子も悪く、休日出勤も少なくない。不良品を出せば下の階の者達に迷惑をかけてしまう。オペレーターとしてのプライドもあるにはあるが、ここまで古い機械の面倒を一人で任されると、新しい機械を買ってくれなんてことを、つい言いたくもなる。そんなこんなが鬱積してくれば、酒の席で愚痴をこぼしてしまうのだが、なにしろ愚痴る側も聞かされる側も新しい機械の設置などの提案を上司が聞き入れる筈がないのは百も承知している。上司曰く「壊れるまで温かく見守れ」それが昔からのこの会社の伝統。こんな伝統を初めに掲げた奴は、オペレーターの気持ちなど考えた事がないんだろうと赤帽の小柄な男は恨んでいた。
 とにかく近頃のこの機械の誤作動には、随分と悩まされていた。


作品名:故障 作家名:夢眠羽羽