【無幻真天楼第二部・第三回・参 かぼちゃっちゃ】
摩護羅迦の体で見えない向こうからゴトゴトというヒマ子が鉢を引きずる音だけが聞こえる
「きょ…」
摩護羅迦の体を押し退けるとそこに京助の姿はなかった
「京助っ」
駆け出そうとした緊那羅の肩を摩護羅迦がつかむ
「緊那羅」
「放すっちゃ!!」
摩護羅迦の手を払って緊那羅が廊下に出た
誰もいない廊下
緊那羅がうつむく
「あいつが…栄野京助だったのか…ふぅん…」
緊那羅が摩護羅迦をにらんだ
「あいつ面白いんだ」
大股で歩き出した緊那羅に摩護羅迦が話しかける
「宮に行きたいとかっていってさ。どうしてかって聞いたらなんか殴りたい奴が宮にいるとかって」
緊那羅がゆっくり足を止めた
「…殴りたい…奴…」
思い出した
京助が迎えに来てくれたこと
「あいつ絶対そいつのこと好きだと思ったね。わかりやすくて」
「すっ…!?」
緊那羅が摩護羅迦を振り返る
「す…」
「すげぇ必死だったからさ。最初は面白かったけどあとからなんかな…手ぇ貸してやりたくなってさって…緊那羅?」
緊那羅の頭に響いたのは母ハルミに言われた言葉
『京助きっと緊ちゃんが好きなのね』
真っ赤になった緊那羅
「す…っ…」
ダッと緊那羅が駆け出した
「あ…緊那羅…?」
駆けていく緊那羅に摩護羅迦が手を伸ばす
ぽんっ
その摩護羅迦の肩を誰かが叩いた
ゴトゴトとヒマ子が鉢を引きずりながら京助の後を追う
「京様ー?」
「あー…?」
呼ばれても足を止めない京助
「いかがなさいました?」
「何が」
部屋の前で足を止めた京助が戸を開ける
朝出ていったままの室内には寝間着にしているシャツと短パンが乱れた布団の上に投げ出されていた
「なんもね…」
バタバタバタバタバタバタ
京助の言葉をかきけした足音に京助とヒマ子が同じ方を見る
「京助っ!!」
ガシィィッ!!
「うおっ!?;」
「ヒィィィィイッ!?;」
なびいたポニーテールと宙を舞った鞄
そして壁にへばりついたヒマ子
ズシャァ…
作品名:【無幻真天楼第二部・第三回・参 かぼちゃっちゃ】 作家名:島原あゆむ