【無幻真天楼第二部・第三回・参 かぼちゃっちゃ】
「ぅおっと」
乾闥婆をなだめようと迦楼羅が乾闥婆に手を伸ばしたその時
左斜め43度辺りからなにかが飛んできて畳に突き刺さった
それをよけた摩護羅迦が顔をあげると京助の前にゆらり立つヒマ子の姿
「京様と緊那羅様を汚らわしい目で見ないでいただきたいですわッ!!」
「ヒマ子さ…ん;」
京助と緊那羅を守るようにバッと葉を広げたヒマ子に緊那羅が声をかけた
「京様は私の旦那様…緊那羅様は私が唯一恋敵と認めたお方…」
ヒマ子が摩護羅迦を睨む
「お二人に手出しなさるのならばこのヒマ子容赦しませんわッ!!」
ぽかんとしている京助と緊那羅
「…鼻血止まったんじゃないんですか?」
すっかり見せ場をとられた乾闥婆が迦楼羅に言った
「旦那って…;」
「ヒマ子さん…?;」
ヒマ子の後ろ姿に京助と緊那羅が呟くように言った
摩護羅迦が左に体を傾ければヒマ子も左へ体を傾け
摩護羅迦が右に体を傾ければヒマ子も右へ体を傾ける
それは上でも下でも斜めだろうがかわらずに
まるでバスケットボールのディフェンスを早送りで見ているかのような
「何をやってるんですかね」
「…ワシに聞くな;」
やや後ろから乾闥婆が迦楼羅に聞く
「何…してるんだっちゃかね…;」
「俺に聞くか;」
いつまでも続く攻防に緊那羅が京助に聞いた
「ふんふんふんふんふん!!」
「させませんわさせませんわさせませんわさせませんわ!!」
終わる気配がない摩護羅迦対ヒマ子のよくわからない戦い
「…なあ」
「へ?」
京助がちらっと緊那羅を見た
「あいつ…お前とどういう関係?」
緊那羅がきょとんとする
「どういう…って…仲間…になるんだっちゃかね? んと…宮…うーん…;」
「…ふーん…」
京助が緊那羅から摩護羅迦に視線を移した
「…京助?」
緊那羅が呼んでも返事をしない京助
「あのきょ…」
「あー…腹減った」
京助に伸ばした緊那羅の手が空気をつかんだ
ぐきゅうう…
そして更に呼び止めようとした緊那羅の声は迦楼羅の腹の虫の声にかきけされ
「迦楼羅…」
乾闥婆がじとっとした流し目で迦楼羅を見る
「なんだ鳥類も腹減ってんのか。食ってくか?」
「だっ…;……;」
何か言おうとした迦楼羅が顔をそらしながら黙った
「来いよ。乾闥婆も」
いまだよくわからん攻防をしている摩護羅迦とヒマ子の横を通って京助が廊下に出る
「まったく…貴方という人は…」
乾闥婆もため息をつきながら一歩足を進めた
「しっ…仕方なかろうっ!!;」
「仕方なくないですよ」
乾闥婆もまた摩護羅迦とヒマ子の横を通り廊下に出ると
「緊那羅」
緊那羅に声をかけた
「えっ」
ハッとした緊那羅があわてる
「いきますよ?」
「あ…うん…」
緊那羅が京助をつかめかなった手を握りしめて小走りで乾闥婆に追い付く
「ほら迦楼羅も」
「わかっておるわっ!!;」
怒鳴りながら迦楼羅も部屋を出た
「ふんふんふんふんふん!!」
「しつこいですわしつこいですわしつこいですわっ!!」
この攻防やめるにやめられないのか
誰もいなくなった部屋でいつまで続くのか
遠く茶の間からはワイワイと声が聞こえていた
作品名:【無幻真天楼第二部・第三回・参 かぼちゃっちゃ】 作家名:島原あゆむ