犬一匹物語 『危機一髪』
もしもメールが見付かったら、それが原因で地獄となる。そして、それが元でダンナと奥さんが離婚でもしたら、僕は一体どうなるのだろうなあ?
歳を取ってもう用済みの僕は、絶対に公園に捨てられてしまう。
それは10年前に逆戻り。オッサンの僕なんかを拾ってくれる子供なんかはもう絶対にいないだろうなあ。
「ああ、奥さんからは御飯ももらえなくなるし……、犬には年金はないし、生活保護も受けられないし……うっう~!」
先にある運命は、ただ一つ。それは餓死。
そんなことを考え出して、「う~うきゃん、う~うきゃん」と、ネガティブに一鳴きしました。
それからですよ、思わず庭の犬小屋へと走りました。その携帯電話をくわえましてね。
しかし考えてみれば、これはダンナへの男の友情でもあるわけで。そう思いつつ、携帯電話をできるだけ奥の方へ隠してやりました。
だけどね、その夕方に、予期せぬことが起こってしまったのですよ。多分奥さんはダンナに何か用事があったのでしょうね……電話したのですよ。
その時、ホント僕は慌てました。だって犬小屋で……着メロが鳴り出したのですよ。
「あらっ、なんで着メロが?」
僕は急いで犬小屋に走ったのですが、残念ながら間に合いませんでした。奥さんが気付いてしまったのです。
完全に手遅れでした。奥さんは犬小屋を覗き込んで、携帯電話を見付けてしまったのです。
「なんで、こんな所に」
そう言いながら、やっぱりですよね……メールを開いたのですよ。それからです。奥さんの機嫌が悪くなり出したのは。
作品名:犬一匹物語 『危機一髪』 作家名:鮎風 遊