犬一匹物語 『危機一髪』
最近、どうもダンナの帰りが遅い。ダンナの奥さんへの説明では、仕事が忙しいからということでした。だけどそれは、嘘だと僕にはわかっていたのです。なぜなら僕は優れた臭覚を持っていて、臭いの嗅ぎ分けは得意中の得意。最近、夜遅く帰ってきた時のダンナの臭いがちょっとね……おかしいのですよ。
それは甘ったるい香水の臭い。
まあ、小心者のダンナのことだから、浮気までは行ってないでしょうね。だけど、その一歩手前ぐらいかな。多分どこかのお水系の女性に入れ上げてるんだろうなあと思いました。
「だけど、これ、その内絶対にヤバイことになるぞ」と。そんな危険な予感がするのでした。
そんな予感のした夜の翌朝、ダンナはもう出勤で家を出てしまっていました。僕は奥さんから朝御飯を頂いて、リビングで朝ドラをのんびり観ていたのです。
そして、その時……発見したのですよ、ダンナの携帯電話を。
それはテーブルの下に落ちて転がっていました。多分、ダンナが忘れたのでしょうね。
この時、僕ははっと思ったんですよ。「これは、ちょっとまずいぞ」と。
だって、ダンナが入れ上げてる女とのやり取りしたメール、それらがケイタイには確実に残ってますよね。勘の良い奥さんのことだから、その携帯電話をもし見付けたら、きっと中を覗き見するだろうと。
「ああ、地獄がやってくる……ヤッベー!」
僕はそう思って、背筋がぞっとしました。
作品名:犬一匹物語 『危機一髪』 作家名:鮎風 遊