犬一匹物語 『危機一髪』
その日から僕の名前は「危機一髪」です。
この家の奥さんが、ヤカンの空だきをやらかしてしまいまして、それを僕が救い、その感謝の気持ちを込めて付けてくれました。
名は体を表す。振り返れば、現在に至るまでたくさんの危機一髪を経験してきました。そしていつの間にか、あれから10年の歳月が流れ、人間で言えばもうアラ還年代になってしまいました。
ここまではダンナに奥さん、それにエッコとヨックンの家族みんなのお陰で自由気ままに暮らさせてもらいました。感謝の気持ちで一杯です。
少なくとも昨日まではね。
どんな生活だったかと申しますと、昼間は家の中でテレビを見て過ごし、夜はふらふらと外の世界へと。これでも一応番犬ですから、庭に放たれるのですが、庭から外へ出る秘密の穴を持ってまして。夜な夜な彼女の家に遊びに行ったり、夜の街をウロウロしたりで、気分は至極上々、そんな自由気ままな生活を満喫していました。言ってみれば、昨日までは実にプライド高き風流犬の日々でした。
しかし、今日からはちょっと違うのですよ。犬のプライドをちょっと落として、生きて行かざるを得なくなったのです。
作品名:犬一匹物語 『危機一髪』 作家名:鮎風 遊