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Aufzeichnung einer Reise02

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ミカゲは額を抑えたままで頬をひきつらせた。
「つ…ってめ、この横暴野郎…!」
レティはにやっと笑って口を開く。
「あら?アタシは野郎じゃなくてかよわい女の子ですが?」
ミカゲの額に静かに青筋が立った。

☆     ☆     ☆

「で、引き受けたんだ。」
「あぁ、まぁ…。」
メルティアストリートにある大きな宿屋スチヘル。レティに送ってもらったミカゲは無事アーク達と合流していた。
そして事情を話す事10分。
ミカゲの話を聞いたアークは呆れたように首を振った。
「僕が言うのもなんだけどさ、ミカゲって人が良いっって言うか押しに弱いっていうか……実は捨て猫とか放っておけないタイプでしょ。」
アークの隣ではルーナが小さく笑っている。ミカゲはいやー…と目線をそらした。
捨て猫などは自分の状況次第で放っておくだろう。なにせルーナの母親の頼みでシャドウ狩りに行った時、自分の都合でもっと大事なものを放置したこともある。……女の子とか。
いや、ちゃんと気にはしているのだ。あの女の子は大丈夫だっただろうか、とか。思ってはいる。思っては。
「まぁとにかくあれだ。明日明後日は自由にしていいぞ。街とか店とか…見て回りたいだろ?」
ミカゲが言うとルーナの顔がぱっと輝いた。この街にはルーナの見たことのない物がたくさんある。年頃の女の子が好きそうなものも、男の子が好きそうなものもある。
「ま、俺かアークか連れていくのが大前提だけどな。」
ルーナは大きく頷く。
「うん!ありがとうミカゲ!」
心底うれしそうなルーナに思わず笑みをこぼしてミカゲはアークに向き直った。
「ルーナもだけどお前もちゃんと楽しめよ。」
ミカゲがにっと笑うとアークはふいと顔をそむけた。
「言われなくても分かってるよ。」
子供のようなアークのしぐさに、ミカゲはまた嬉しそうに笑った。

☆      ☆      ☆

アークやルーナと同じくミカゲもダス・グランツを訪れるのは初めてだ。見たことのない街中を羽目を外さない程度に歩きまわり楽しんでいると、いつの間にかレティの身代わりの日がやってきていた。
「おっはよー!!!」
早朝、けたたましい音と共に部屋に入ってきた闖入者によってミカゲとアークの睡眠は妨げられた。
「……今何時だと思ってんだよ。」
体を起こしレティを睨むミカゲの目が半分以上本気だった。誰だろう、とか何で来たんだろう、とか何で部屋知ってるんだろう、とか何で部屋入れたんだろう、とか早すぎるだろう、とか色々と、本当に色々と言いたい事はあるものの、今のアークの一番の関心は早朝に叩き起こされたミカゲの機嫌についてだった。
基本的にミカゲは自分で起きるのでアークやルーナが起こしたことは無い。だが今の様子からみるに起こした事が無くてよかった気がする。
「近所迷惑にも程があんだろお前。」
普段より二割増しで低い声音にアークは僕は知らない、とばかりに部屋の隅に避難する。
一方ミカゲの不満の矛先であるレティはけろっとした顔で自分の持ってきた荷物を漁っていた。
「あ、あったあった!はい、制服と階級章!あと報酬はあんたがもらっていいから。って聞いてる?」
「…………………聞いてる。」
「じゃ、オッケーね。第二港までは案内するから早く着替えてねー!」
一息に自分の要件を伝えてバタンと部屋を出ていったレティをポカンとした顔でアークが見送る。
「……あんな人、居るんだ…。」
思わずこぼれた言葉にミカゲの声が重なった。
「絶対なるなよ。」

「おー。様になってるじゃない。やっぱあたしの目に狂いは無かったわね!」
ミカゲがギルドの制服を着て部屋を出ると、得意げな笑顔のレティに背中をばしばしと叩かれた。…因みにアークは部屋の中に退避中である。
「…そりゃどーも。」
ミカゲが半眼でレティを見下ろしていると隣のだ、部屋の戸が開いてルーナが顔を出した。
「あれミカゲ早いね。おはよう。…その服どうしたの?似合ってるね。」
ミカゲとしては不本意のうちに着せられているものであり似合っているのはあまり嬉しくなかったりする。のだがルーナの素直な感想にそんな事を言えるわけもなく、ミカゲは素直にお礼を言うしかなかった。
「おはよルーナ。…まぁ、うん、ありがとな。」
少し遠い目になったのは…不可抗力だ。
「…かわいい!!」
「はい?」「え?」
一瞬の沈黙を破ったのは目を輝かせたレティだった。レティはルーナの方を見てキラキラと眼を輝かせている。
「え、ちょ、レティ?おい?」
思わずミカゲが声をかけるもレティの耳には届いていない。レティはルーナの元に走り寄って手をとった。
「可愛い!いいな!この子彼女!?」
「いやちが
「ルーナだっけ?アタシはレティ=フィーシッチよ。レティでいいわ!」
「あ、えと…
「おいレティ落ち着…
「あ、街案内してあげる!」
「人の話聞けよお前。」
暴走するレティの頭上に、小気味の良い音と共にミカゲの拳が落ちた。
「った!何すんのよ!」
結構な力を入れたにも関わらずレティは頭をおさえるだけ。普通なら蹲るぐらいはするだろうにこの石頭野郎。ミカゲは心の中で毒づいてレティに向き直った。
「お前な。ルーナ引いてるだろ。」
呆れ口調でミカゲが言うとレティははっと気づいたようにルーナを見た。ルーナはよく分からない様子で目があったレティに向かって曖昧に笑いかける。
「え、と…よろしくね、…レティ?」
レティはぱああああっと顔を輝かせると笑顔で頷いた。
「よろしくルーナ!!」
…たとえちょっとだけがさつであっても女の子の友達が出来るのはルーナにとっていい事だ。きっとそうだ。
ミカゲは自分に言い聞かせて眼前の二人を引きつった笑顔で見守った。

数時間後、ミカゲとレティは無事…急ぎ足でメルティアストリートを歩いて、第二港へと向かっていた。
「ったく、何のためにあんな早く押しかけてきたんだか…。」
ミカゲのぼやきにレティは舌を出していいかえす。
「いいじゃない。人生に予定外のハプニングはつきものでしょー?」
「いやわけわかんねぇ。」
「短気な男はモテないよ?」
「お前に言われたくはねぇな。」
「人のアドバイスはありがたく聞くべきよー。」
「だからその棒読みが腹立つんだっての。」
「だから短気な……」
エンドレス不毛会話を続けながら二人は第二港に到着した。アドリグ号というのは恐らく左端に停泊している小さ目だが質のいい船の事だろう。
レティがその船を指さしてミカゲを振り返る。
「あれがアドリグ号よ。行ったら依頼主が居るはずだから依頼書と階級章見せて…あとは臨機応変に指示に従ってくれたらいいわ。」
ミカゲはレティの指示に頷いてから階級章をポケットから取り出した。腕に付けられるサイズの赤い階級章には剣と楯―ギルドの紋章と二つの星が付いていた。
「ん?この星何だ?」
ミカゲの問いにレティはあっけらかんと答える。
「あぁそれ?それは星が階級表してんのよ。一つが士官、二つが副長。で三つがギルド長、ってな風にね。」
「あぁなるほど……って、あ?」
適当に頷きかけたもののよく考えればおかしな言葉が聞こえた気がする。星二つが……副長とか何とか。
「…お前、副長なの?」
作品名:Aufzeichnung einer Reise02 作家名:虎猫。