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Aufzeichnung einer Reise01

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ミカゲは言葉を失う。確かに父親の姿が見えないな、とは思ったが都市のほうに働きにでも行っているんだろうと勝手に思いこんでいたのだ。
「ルーナの父親は村で一番強くて…そして、優しい人だった。」
ぽつりぽつりと思いだすように言葉が紡がれる。
「ある時、村の…馬鹿な子供が勝手に村を飛び出して…夜まで帰ってこなかった。心配したルーナの父親はその子を探しに行ったんだ。」
声に棘が混ざりだす。
「そして、昔からいる獣型の大型シャドウと闘って…負けた。家族を亡くしたルーナたちは、それでも全くその子を責めなかった。……無事でよかった、ってその子に、笑いかけてくれた……!」
痛みをこらえるような顔でアークは吐き捨てた。まるで、自分を責めるように。
「…だからお前は、ルーナを守ると決めたのか?強くなって、自分が人を守れるように。」
ミカゲの言葉をアークは首を振って否定した。
「そんな立派な事じゃない。僕はただ…守るって言って、自分のやったことから逃げてるだけだ。」
きっとアークも小さい頃は好奇心旺盛で年相応の性格をした子供だったのだろう。
「自分のしたことに向き合って、そのうえでお前は自分にできることをしてる。お前は逃げてなんかない。……立派だよ、お前。」
アークは黙り込んでしまった。代わりにミカゲが口を開く。
「俺は口をはさめる立場じゃない。だからお前たちは自分で許可をもらわないとな。」
でもな、と続ける。メイラが用意してくれた剣を握ってすこしだけ悲しそうに微笑むと、ミカゲはゆっくり顔を上げた。
「俺に出来る限り、俺は守るよ。ルーナも、お前も、けがさせないとは言えねぇけど、精一杯守ってやる。」
お前には必要ないかもなと笑うとアークはやっと顔をあげた。その顔にもう迷いはない。
「僕も、一緒に連れて行ってください。」
ミカゲは無言で頷いた。
「じゃ、まずはルーナの母さんを説得しないとな。…そういや、お前の親は?」
何の気なしに問いかけたミカゲはそこで再び言葉を失った。
「僕の親、戦争のときに死んでるから。だからご飯もこの家にお世話になってるんだよ。」
すたすたと歩いていくアークの背中を見て、ミカゲは聞かなきゃよかったと後悔する。
深すぎるだろ二人とも!心の声は誰に聞こえる事もなく消えていった。


階下ではルーナと母親が無言でにらみ合っていた。ルーナのほうは今にも泣きそうな顔をしている。
「ぅわ修羅場―…。」
思わず呟く。アークは呆れたようにミカゲをみる。
「普通こんな状況でそんな言葉出るかな。」
「いやいや思わず…。」
ルーナたちは二人が降りてきたことさえ気付いていないようだった。その証拠に二人ともこちらを見もしない。
「どうするアーク。これ突っ込んでいいのか。」
「駄目に決まってるでしょ。空気読んでよ。」
「だってさっきから動かねぇし……」
ぼそぼそと話しているとルーナの母親がちらりとこっちをみた。アークをみた後ミカゲを睨みつけて直ぐに思い切り顔をそむける。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?俺なんかした!?」
思わず尋ねるとアークは困ったようにミカゲを見やる。
自分でも気づかないうちに何かしてしまったのだろうか。悶々と考えていると母親の視線で気付いたのか、ルーナが二人をみてぱっと顔を輝かせた。
うわぁ何かやな予感。
ミカゲの予想は的中した。
「ミカゲ!アーク!」
パタパタとルーナがこちらに走ってきてしまったのだ。ルーナは救世主でも見るような目つきだが背後の母親の目つきは恐ろしく冷たい。
しかもミカゲに対して。
「えっと、ルーナ?」
ミカゲを見上げるルーナの顔は見るからに嬉しそうだ。固まってしまったミカゲにアークが助け船を出す。
「ごめん、ミカゲ。僕がミカゲを説得する代わりにルーナはお母さんを説得しなって言ったんだ。だから…」
つまりはこういうことらしい。
ルーナはミカゲと旅に出たいという。
    ↓
母親は反対する。
    ↓
アークがミカゲを説得しに行く。
上手くいったらミカゲを連れてくると約束。
    ↓
ルーナたちはそこで言い争い。
    ↓
ミカゲとアークが一緒に来た。つまりOK。
    ↓
無責任なことしやがってと母親激怒。
    ↓
で、今。
「うぅぅわぁ何てとばっちり。」
ほおがひきつるぐらいはきっと許されるだろう。逆恨みだと叫びたかったが母親の気持ちもわかるのでぐっと我慢する。
「ミカゲさん。」
「ひっ、はい、何でしょう!?」
母親の視線が痛い。ほんとに痛い。
「貴方も仮にも大人なのだから馬鹿げたことはやめろと注意すべきでしょう。」
疑問ですらない。完璧な断定口調にミカゲはいたたまれなくなる。
「い、いやまぁ、俺自身がこうして旅をしている手前、そんな資格はないかなーとか……」
氷の視線にミカゲの声はしりすぼみになって消えていく。母親は暫らく黙って氷の視線を投げ続けていたが、急にビシッとミカゲを指さして提案した。
ただその提案いや提案というよりは命れ…提案はとても滅茶苦茶なものだった。


「……で、何で俺はこんなとこに居るんだろうな。」
何度目か分からないため息とともにミカゲはまた一歩、足を踏み出す。
ここはルーナたちの村から川の上流に向かって一キロほどの場所だ。相変わらず林はさわさわと揺れているし陽光は差し込んでいる。そしてうだるほど暑い。そんな中ミカゲは一人、しかも剣と薬だけを持って林の中を歩いていた。
ルーナの母親の提案はミカゲが娘を守れるほど強いと証明しろというものだった。そのために、以前ルーナの父親が敵わなかったシャドウを倒して来いというのである。
「ったく、無茶苦茶言うよなぁ。」
やれやれと首を振ってミカゲは歩き続ける。ルーナの母親はミカゲが無理だと断ることを期待していたのだ。だがミカゲとしては一度協力するようなことを言った手前、素直に断ることも出来なかった。
提案を受けた時の三人の顔は見ものだった。ルーナは泣きそうな顔になるしアークは焦りだすし、何よりルーナの母親が信じられないという顔をした。
「あんな顔するぐらいなら最初から言うなっての。」
言いながらも浮かんでくるのは苦笑だった。
しばらく歩き、ミカゲは地図をみて現在位置を確かめると気を引き締める。今回の標的は珍しく自分の巣を持つシャドウだ。そしてその巣はもう近い。
「さて、と。まじめに行くか!」
気合を入れて走り出す。シャドウを倒せる自信があるわけではない。獣型の大型シャドウなどめったに出会うものではないし、村一番だったというルーナの父親ほどに自分も強いと思っているわけでも、また楽観視しているわけでもない。それでも。
「俺は、負けない。」
ミカゲの目の前に洞窟の入り口が現れた。
ミカゲは剣を抜き慎重に洞窟を進んでいく。鼻が曲がりそうなにおいに思わず小さく呻いた。
「シャドウって人喰ったりしねぇよな…」
思わず疑いたくなるほど洞窟は腐敗臭に満ちていた。
奥へ奥へと進んでいくがシャドウの姿はおろか咆哮も聞こえなければ気配すらも感じられない。
「…いないのか?」
遂に一番奥までたどりついてしまった。そこでミカゲは予想外なものを発見する。奥に、人が倒れていたのだ。
「おい、大丈夫か。」
作品名:Aufzeichnung einer Reise01 作家名:虎猫。