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Aufzeichnung einer Reise01

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「それにまたアークを連れだしたの?迷惑でしょう。お前は自分だけじゃなくアークまで危ない目にあわせたの。わかってる?」
ルーナは無言で頷く。
「このごろは川の近くに大型のシャドウが出るから出てはいけないと言ったのに…!」
母親はルーナの肩をつかみ責めるように言う。ルーナは俯いたままだ。
恐らく、シャドウの咆哮はこの村にまで聞こえていただろう。大陸にシャドウが出現し、危険が隣り合わせになってからどこの村でも一人や二人は戦える訓練をするようになった。この村も同じだろうにシャドウの咆哮が聞こえ、村の子供が襲われたかもしれないのに誰一人として助けに来なかったのはどういうことだろう。
ミカゲが眉根を寄せているとアークが黙ってルーナの隣に立った。母親の手を自然と外させながらアークは言う。
「おばさん、僕は大丈夫ですよ。もう慣れてるし、そのために強くもなったんです。ルーナも反省してるし…それに紹介したい人がいるんです。」
穏やかに言いながらアークはミカゲを振り返った。皆の視線が集まりミカゲは小さく頭を下げる。
「僕らの命の恩人のミカゲさん。水が欲しいって言ってたから村に来てもらったんです。」
「命の恩人って……まさか、お前が敵わないシャドウを倒したのか?」
逞しい無骨な感じの男が驚いたようにミカゲをみる。他の村人も目をみはっていた。どうやらアークは村の中で相当の強者らしい。ならば先ほどの違和にも納得がいく。アークが付いているなら大丈夫という事だったのだろう。多分。きっと。
「…あー、どうも。」
沈黙と視線に耐えられなくなったミカゲが頬を掻きながら言うと村人たちは突然目を輝かせた。
「素晴らしい!アークは村でも指折りの戦士なんだ!なのにアークの敵わないシャドウを倒すなんて!!」
逞しい男がそう叫ぶと皆が一斉に頷く。
「いや、俺が手を出しただけでアークが敵わなかったとかいうわけじゃn…」
「ぜひお礼をさせてくださいな。」
にっこりと言いだしたのはルーナの母親だった。どうも親子そろって人の話をなめらかにスルーする癖があるらしい。
ミカゲが色々と言いあぐねている内にどんどん話が進んでいく。気づけば日はとっぷりと暮れ、ミカゲは村のみんなに囲まれてルーナの家に泊っていくことになってしまっていた。
ミカゲはどうにか人の輪を抜け出してルーナの家の裏手に回ると壁に寄りかかりずるずると座り込んだ。村の人たちは良い人ばかりだった。だがいくら良い人だといっても大勢の人に囲まれ好奇心いっぱいの目にさらされるといたたまれなくなる。それになにより凄まじく疲れる。
「はぁぁぁぁぁ…。」
ミカゲが大きく息を吐いた時、家の中から小さな話し声が聞こえてきた。ルーナの母親はさっき外にいたはずだ。だとすると声の主はルーナだろうか。聞いていいのか立ち去るべきか迷っていると自分の名前が耳にとどく。
「確かにミカゲは良い人だと思うよ。僕らがシャドウに襲われた時、一人で逃げてもいいのにあの人はそうしなかった。」
「じゃあ…」
「でもそれとこれとは話が違う。いくら良い人でも一緒に旅をしていい理由にはならない。外が危ないことはわかってるだろ!」
アークの声は苛立っていた。どうやらルーナはミカゲと共に村を出ることを諦めていなかったらしい。
「でも、もうこんな機会ないかもしれない。私はこんなとこで諦めたくないの!」
珍しく強気なルーナの言葉にミカゲは驚いた。本気の夢だとは思っていたがそこまでとは。
「私は弱いよ。でも…だから、私は私にできることで人を助けたい。」
ルーナの声は今にも泣きだしそうだった。ミカゲは静かに立ち上がって窓をのぞく。拳を握りしめるアークの姿が見えた。
「危ないって言ってるんだ!」
ルーナのことを思っての言葉。きっと、守ってやりたいと思うからこその言葉だ。
「それでもいい。」
静かな声にアークが目をみはった。
「それでもいいの。なにも出来ないよりそっちのほうがいい。やって、みたい。」
アークは何も言わなかった。ルーナの意志の強さにも言えなかったのかもしれない。
アークは大きく息を吸う。
「どうしても、意見は変わらないんだね。」
ルーナは黙って意志の強い瞳でアークを見つめている。
「………分かったよ。僕からもミカゲに頼んでみる。でもね。」
ぱっと嬉しそうに笑ったルーナにアークはくぎを刺す。
「僕も一緒についていく。そうじゃなかったらこの話は無し。良いね。」
「え、でもアーク…」
「それとちゃんとおばさんの許可はもらうこと。ミカゲに無理やりじゃなく良いって言ってもらうこと。手伝ってはあげるから。」
有無を言わせぬ口調で告げるとアークは部屋を出て行った。
ミカゲは静かに窓を離れる。気ままに大きな世界を見て回る一人旅だったはずが何やら事情が変わりそうだ。ルーナの夢は応援したいしアークはちゃんとした訓練を積めばもっともっと強くなれるだろう。…本人が望めば、だが。
しかしミカゲには人の面倒を見ながら旅を続ける自信はないのだ。一人なら諦められることも人が増えればそうはいかないかもしれない。ミカゲは一瞬だけ俯いて拳を握りしめる。
「…でもまぁ、結局はなるようになるよなぁ。」
ルーナの母親が許可を出したら連れて行こう。ミカゲはそう結論づけると睡眠を求めて家の玄関のほうへと戻っていった。
そこで二人の話を聞いていたのがミカゲ一人ではなかったことにはまったくもって気付かずに。


翌朝ミカゲが目を覚ました時、すでに陽は高く昇っていた。ぼーっとする頭で周りを見回す。
「…やっべ、寝すぎた!」
叫ぶと同時に蒲団から飛びあがり、貸してもらった夜着を脱ぐと丁寧に、かつ俊敏にたたむ。自分の服に着替えたもののそれには昨日のシャドウの返り血がそのままになっている。
「服、買えねぇかな。」
一人呟いて剣をとると腰に下げる。同時に部屋の扉をたたく音がした。
「ミカゲ、起きてる?アークだけど。」
遠慮がちなアークの声にミカゲは眉根を寄せた。
「起きてる。入っていいぜ。」
入ってきたアークの顔はどことなく疲れているように見えた。
「起こしてごめん。…話があって。」
「良いって、もう昼だしな。」
謝るアークにミカゲは苦笑した。そしてふと昨晩のことを思い出す。言い出しにくそうなアークの顔をみるに、おそらくソレ絡みの話だろう。
「…話はまとまったのか?」
「は?」
アークが顔を上げる。ミカゲはごめんと頭を下げた。
「昨日聞いちゃったんだよな、お前らの話。あとルーナの決意とか……お前の想い、とかも。」
アークは無言だった。ただ視線だけを迷うように彷徨わせる。
「俺はさ、お前らの親が許すなら連れて行ってもいいと思ってる。」
茫然とした表情でアークはミカゲを見つめる。もしかしたら、ミカゲがとめてくれると思っていたのかも知れない。
「俺にはお前らを止める権利とかないしな。…でも一緒に旅に出て俺がお前らを守れるって保証はどこにもない。それでいいって言うんなら、少なくとも帝都ぐらいまでは連れて行くさ。」
ミカゲは笑ってアークの肩をたたいた。
「ルーナの…」
ん?とミカゲは聞き返す。
「ルーナの父親は、昔からこのあたりにいるシャドウに殺されてるんだ。」
作品名:Aufzeichnung einer Reise01 作家名:虎猫。