Aufzeichnung einer Reise01
僕らの村→この近く→水が豊富→俺は水が欲しい。
「うーん…君たちが良いならそうしてもらえると助かるな。実は俺、水分補給したくて…いいかな?」
苦笑して腰の革袋を振って見せる。少年もつられたように苦笑した。
「もちろんいいですよ。うちの村、水とかの資源だけは豊富ですし。」
じゃあ行きましょうか、と少年は歩きだした。少女は暫らく川岸にしゃがんでいたがミカゲが少年の後に続いて歩き出すとすぐに小走りで追い付いてきた。ミカゲの横で立ち止まると水でぬらしたタオルを差し出してにっこりと笑う。
「これ、よかったら使ってください。私たちの所為でだいぶん汚れちゃってますから…」
言われて初めてミカゲは自分の格好を見下ろした。シャドウの血が大量についており鞘にまで飛び散っていた。
「うっわ気付かなかった、ありがとう!ありがたく使わせてもらうよ。」
「はい。」
少女は鞘にこびりついた血を落とそうと奮闘しているミカゲを暫らくぼーっと見ていたがやがて首をかしげて口を開いた。
「あの、私はルーナって言います。ルーナ=ラ=フィリアです。あ、先に行っちゃったのがアークです。あなたは何ていうんですか?」
ミカゲは鞘をこする手を止めて驚いたようにルーナと名乗った少女をみる。ぽわんとした少女はミカゲと眼が合うと?を浮かべて首をかしげる。
少しは人を疑うってことを覚えたほうがいいんじゃないだろうか。思わず初対面のミカゲが心配するくらいルーナのまとう雰囲気はほわほわしていた。
「あー…うん、えっと俺の名前だっけ?俺はミカゲ=フリューフリング。旅がしたくて村を飛び出したばっかの世間知らずだよ。」
あははー、と笑いながら言えばルーナは思いのほかミカゲの言葉に反応してきた。
「旅をしてるんですか?すごい!」
「え?いや旅をしてるってよりは始めたばっかだtt…」
「すごいですね!!!」
……人の話を聞いちゃいない。ミカゲは訂正しようと口を開いたがルーナのキラキラとした瞳にぶつかり何も言えなかった。ここで否定したら色々と駄目な気がする。
「私、村で踊りの勉強してるんです。踊りで、皆に元気をあげたいから。あと…人の役に立ちたくて、魔法の勉強とかも……でもやっぱり村だけじゃ限界があって……。」
ルーナは困ったように笑う。
「だから、いつか大きな街にいってもっと踊りと魔法の勉強したいんです。」
「…そっか。頑張れ。」
心からの夢なのだろう。不満に近いことを言っている割にルーナの顔は明るい。ミカゲは自然と応援したいと思った。
「あの…それで、その…」
嬉しそうに夢を語っていたルーナの視線が迷うようにうろうろと動く。
「ん?どうした?」
ミカゲが尋ねるとルーナは暫らく挙動不審に動いた後、思い切ったように口を開いた。
「だから、あの、私も一緒に旅に連れて行ってくれませんか?」
「………へ?」
思わず間抜けな声が漏れる。目の前の少女をみるにどうやらいたってまじめなお願いらしい。
「い、いや、旅に出るとかってのは俺が決めて良い問題じゃないし…俺初対面で…っていうか、そもそも親はいいって言ってるのか?」
ルーナは困ったような顔をする。それが何よりの証拠だった。
「親が良いって言ってない奴を連れてくのは駄目だろ。なんせ外は危険がいっぱいだからな。…俺が君を助けられる保証もないし。」
「……うぅ」
あからさまに落ち込んでしまったルーナにミカゲは罪悪感を覚えた。だがミカゲには他人のお守をしながら旅をしていく自信はない。
「そうですよね…ごめんなさい。」
ルーナは謝ってミカゲの前をとぼとぼと歩いていく。
ミカゲにはルーナの気持ちが痛いほど分かる。だが同時に、ルーナのことを心配しているであろう親の気持ちも分かる。
何とも言えずに黙って歩いていると前方からミカゲを呼ぶアークの声が聞こえてきた。
「着きましたよ!」
声に反応して顔をあげると、ミカゲの育った村より少し大きな村が見えた。河に近い村らしく川魚の干してあるものや水を使った飾りなどが目につく。
「へぇ、綺麗なとこだな。俺の村より全然でかいし。」
素直な感想を漏らすミカゲにアークは苦笑して返してきた。
「そんな立派じゃないですけどね。えっと…」
「あぁ、俺はミカゲだよ。ミカゲ=フリューフリング。よろしく。えっと、アーク君だっけ。」
ミカゲがにっと笑うとアークは一瞬驚いた顔をしてすぐに小さく息を吐いた。
「ルーナ、また勝手に人に名乗って。良い人じゃなかったらどうするつもりなんだよ。」
どうやら二人にとって恒例のことらしく、アークの口調は責めているというよりも呆れているようだった。
「だって、助けてくれた人だし…それにアークも助かったって言ってたじゃない。」
ルーナは逆に?をつけて言う。やはりこの少女には危機感というものが足りないらしい。アークは諦めたように首を振ってミカゲに向き直った。
「あらためて、僕はアーク=スティリーです。アークで構いません。」
律儀に差し出された右手を握ってミカゲは笑う。
「ミカゲだ。呼び捨てで構わないし敬語も必要ない。大して歳も離れてないだろうからな。」
アークは少し驚いたような顔をする。
「え、ミカゲさ…じゃなかったミカゲはいくつなんで…なの?」
わざわざ言いなおすところがまた律儀だと笑ってミカゲは逆に問い返した。
「幾つに見える?」
アークは目を瞬かせる。
「えっと…24、5とか。」
…地味にショックだった。これでもアークの性格上、遠慮というものが働いているだろう。その答えで25。何やら自爆してしまった気がする。
「……俺21になったばっかりだよー。」
何やら棒読みチックになったのはご愛敬だ。案の定アークが焦りだす。
「あ、いやその、大人っぽいなーって意味で、深い意味とかは全然…」
必死の言い訳にさらに心が折れる。
「でも大人っぽいって羨ましいなぁ。」
のほほんとした声に二人は動きを止める。声の主はほのぼの少女ルーナである。
「私なんていっつも歳、下に見られちゃうから。アークばっかり大人だねって言われるし…わたしだってアークと同い年なのに」
頬を膨らませたルーナの言葉に今度はミカゲが驚く番だった。
「え、君ら同い年なの?」
「えぇまぁ、一応。」
ルーナはまたむーっと唸る。
「ごめんごめん。兄妹みたいに見えたからさ。」
ミカゲの言葉にアークが頷きルーナがふくれる。
「村のみんなにもよく言われるし、実際同じようなものだから。」
「同じじゃないよ、幼馴染でしょ!」
「一緒だよ。」
「一緒じゃないよ!」
「ふはっ」
ミカゲは思わず噴き出してしまった。アークがばつの悪そうな顔で黙りこむ。その様子がおかしくてまたミカゲは笑った。
そうしていると声が聞こえたのか村の中から大人が数人歩いてきた。大人たちはまずミカゲに目を止め驚いた顔をしたが直ぐに子供たち二人を見つけて走りだした。
「ルーナ!またお前は勝手に外に出て…!」
恐らくルーナの母親だろう。一番に駆け寄ってきた女性が声を荒げた。ルーナはしゅんとして視線を落とす。
「ごめんなさい……。」
周りの村人たちは何も言わずに母子を見守りながらも、ちらちらとミカゲをみている。
作品名:Aufzeichnung einer Reise01 作家名:虎猫。