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仙境綴り(せんきょうつづり)2~梨羅の姫君~

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 そのいつもにも増して深い声は、決然としたものに満ちていて、桃華の心の奥底にまで届いた。
 今、桃華はあれほど恋い焦がれたひとの腕の中にいた。
 やわらかな風が優しく二人の側を吹き抜けてゆく。リーラの花が二人を見守るように白い清楚な花を凛と咲かせていた。


「―これにて、二つめの物語を終わりとさせて頂きとうございます」
 美芳は長い話を終えると、深い息を吐いた。 仙王はこれまでとは打って変わった明るい表情で美芳を見た。
「超の皇帝と羅の姫は末長く幸せに暮らしたのだな」
 念を押すかのようなその物言いに、美芳は小さく頷いた。
「不思議なものでございます。はるけき昔には、地上で見かけることのできた宝寿草が今現在は殆ど見当たりません。わずかに砂漠地帯のオアシスに残っているのみ。伝説では、仙王様が奢る人間たちをお怒りになり、万病に効くという宝寿草を仙王様のお住まいになる水晶宮の庭園に隠しておしまいになられたともいいますが」
 それゆえに、美芳は昆論山脈の奥深くにまで分け入り、宝寿草を求めにやってきたのだ。
 今やかつて栄えた超、羅、揚の三つの大国は滅び、この世はあまたの小国に分かたれ、各国がその利を求め争い合う戦国乱世の時代である。
 はるか昔、超が最初に群雄割拠の国々から一足飛びに抜きん出て諸国を平定する以前、やはり今のように小国同士があい争う時代が続いていた。それが彼の国の初代皇帝隆治帝が武力でもってすべの国を征し、新たに国を興し国号を「超」とした。その後、続いて幾つかの国がまとまり「羅」が生まれ、最後に「揚」ができたのだ。三国による平和的な統治は長らく維持されたが、やがて大きな戦が起こり、繁栄を誇った国はすべて滅び去った。
 それは、人間の傲りを万物の王である仙王が怒ったためであるとされている。
 今、人々は皆貧しく、戦ににつぐ戦で疲れきっている。仙王が望んだ国の形は、このような殺伐としたものだったのだろうか。確かに、かつて人間たちは奢り高ぶってはいたけれど、あれほど高い文明を誇っていたのに。
 仙王の美しい双眸が射抜くように美芳を見つめている。美芳は内心の考えを見透かされまいと、小さく首を振る。
 この美しき仙界の王を満足させる為には、今ひとつの話をせばならない。仙王が妖艶な笑みを浮かべた。
「それでは、三つめの話を聞かせて貰おうか」
 まるで悪戯をしかける子どものような邪気のない声音であった。
「かしこまりました」
 母のためにも、ここで諦めてはならない。美芳はうっすらと汗ばんだ右の手のひらをそっと左手で握りしめる。
「それでは次のお話をさせて頂きます」
 美芳の口許を仙王はじっと見守った。