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仙境綴(せんきょうつづり)1~砂漠の花~

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「女ではなくとも、楽しむことはできる」
「止めろ―!!」
 リーラの樹に縛められた良人が叫ぶ。その叫びは振り絞るように深い夜の闇をつんざいた。
 良人は、我が眼の前で妻が隊商(キャラバン)の男、いや、盗賊たちに乱暴されるのをなす術(すべ)もなく見つめるしかなかった。
 やはり、妻を―、梨羅を連れ出したのは間違いであったのかと苦い後悔が一挙に胸に押し寄せる。
 梨羅は超に滞在する羅国(ラーこく)の大使の嫡子であった。羅国は海を隔てた、はるかな北方の大国であり、梨羅のような白い肌、蒼い眼に黄金色(きんいろ)の髪を持つ白色系の民族が圧倒的に多い。
 梨羅は羅の国王の実弟の息子であり、大使に任ぜられた父親と共にはるばる海を越えて超に来た。梨羅は父と一緒に皇帝の住まう宮城にほど近い大使館に暮らしており、良人―猛訓(もうくん)は大使館に仕える従者であった。
 猛訓の主な任務は屋敷の警護や大使、及びその家族の身辺を守ることであった。だが、あろうことか猛訓と梨羅はいつしか道ならぬ恋に落ち、激しく愛し合うようになった。梨羅は実の名を梨人(りじん)といい、れきとした貴族の跡取り息子であったのだ。身分違いに加え、同性同士の許されざる恋―、ひとたびは互いのことを想い別れようとしたが、求め合う気持ちは強く、ついに二人はすべてのものを、国を親を棄て手に手を取って超を脱出した。
 梨人は名を梨羅と偽って、女の姿に身をやつし、夫婦として砂漠の旅を続けた。
 元々身体の弱い梨人を魔の砂漠の旅に連れ出すのはためらわれたが、放たれる追っ手に発見されるのを避けるためには、致し方なかった。
 だが、猛訓もよもや「砂漠の鷹」に遭遇するとは考えてもいなかった。
 隊長は少年の両脚をいっぱいにひろげ、高々と持ち上げる。自分の肩へと白い脚をのせ、奥深くへと責め立てた。あらゆる陵辱が数人の男たちによって行われ、少年の白い身体は男から男へと次々に汚されていった。
「止めろ―、頼むから止めてくれッ―!!」
 猛訓は声を限りに叫んだ。
 少年の悲鳴が夜を裂く。
「猛訓、助けて―」
 愛しい恋人の名を少年は叫ぶように呼んだ。
 それから一晩中、少年の悲鳴が絶えることなく聞こえた。それは明け方近くになって徐々にか細く力ないものになり、夜明けと共に完全に絶えた。
 見つけた獲物からは容赦なく金品を奪い尽くし、最後には許しを乞い助けを求める者の息の根を止める―、それが残酷非道を謳われた「砂漠の鷹」の常のやり方であった。
 だが、この時、砂漠の鷹は猛訓と梨羅のとどめを刺すことはなかった。
「お頭(かしら)、このままで良いんですかい」
 出立寸前、手下の一人が彼の耳許で短く囁いたが、彼は無言で首を振った。その表情は目深に被った布に隠れて窺い知れない。
 陽が昇ると共に、旅の隊商(キャラバン)にやつした盗賊たちは駱駝を駆りオアシスを後にした。
 後に残されたのは、数人の男たちに陵辱の限りを尽くされ慰み者にされた少年とリーラの樹に縛りつけられた猛訓のみであった。
 何を思ったのか、砂漠の鷹は立ち去り際、猛訓の縛めを解いていった。
 猛訓は漸く自由になることができた。
 急いで倒れ伏している少年の傍に駆け寄る。白い華奢な身体には無数の疵痕が刻まれていた。か細い背や胸、鎖骨に残された赤い刻印は紛うことない汚辱の証(あかし)であった。男たちは梨人の身体をさんざん弄び、傷つけた。抵抗したために殴られ打たれ、顔にも身体にも無数の傷や打撲の跡がある。何度も繰り返し挿入されたために、臀部はただれ、裂傷さえあった。
 白い背中には、鞭(むち)で打たれたような跡さえ残っている。猛訓はあまりの惨状に言葉すら失い、震える手で恋人の背に触れた。
「梨羅―」
 震える声でその愛しき名を呼んでも、最早恋人はその瞼を固く閉じたままで、身じろぎもしなかった。
 あまりの激しい責め苦に、少年の身体は耐え切れず、息絶えてしまったのだ。
 猛訓の切れ長の双眸からついとひとすじの涙が流れ落ちた。
 梨人の白い頬には幾筋もの涙の跡があった。その涙の跡をそっと指でなぞると、言い知れぬ哀しみが湧き上がった。
―可哀想に、どんなに辛かっただろう、どれほど怖かっただろう。
 眼の前で陵辱されている恋人を猛訓は助けてやることさえできず、ただ黙って眺めているしかなかった。恋人たる猛訓の前で、幼い少年は輪姦(まわ)されて、息絶えてしまったのだ。猛訓の胸にやり切れなさと無力であった我が身への悔恨の情が去来する。
「許してくれ」
 猛訓は泣きながら、その場に崩折れた。猛訓が零す涙は次々に乾いた砂に落ちた。
 猛訓はそのまま、その場に倒れ伏し、泣き続けた。食べることも眠ることさえ忘れて、最愛の恋人の死を嘆き続けた。
 やがて、三日三晩泣き続けた猛訓は、心を失った虚ろな抜け殻となり果て、数日めに息絶えた。愛する恋人の傍らで眠るように逝った男は微笑むような表情で息を引き取った。
 やがて、砂漠を吹き抜ける風が砂塵を巻き上げ、薄幸な二人の恋人たちの上に降り積もる。砂は果てしないほどの長い刻(とき)の流れと共に二人の亡骸の上に降り積もり、二人の姿をことごとく隠し去った。
 その一千年後、広大な砂漠で二体のミイラが発見された。寄り添い合うように膨大な砂の中で永遠(とわ)の眠りについた二人が何を想っているかは誰も知らない。ただ、砂の中深くに埋もれた哀しい恋の物語があるのみ―。


「それでは、これにて一つめの話を終わりとさせて頂きます」
 美芳は語り終えると、小さな息を吐いた。
 自分の話が眼の前の美しき仙人の王を満足させたのかどうかは判らない。彼(か)の美しき王は、憂いに満ちた表情で美芳を見つめた。永遠とも思える沈黙の後、仙王が切なげな吐息を洩らした。
「何とも哀れなる話だな」
 仙王の美しき眼(まなこ)に光るものを、少女はその時、確かに見た。
「そなたの話には聞く者の心を打つものがあるように思う。もっと聞かせてはくれぬか」
 仙王の求めに、美芳は頷いた。
「判りました」
 美芳の返事に仙王の美しい双眸が細められる。
 美芳の次の話を待つように、美しき王は眼を閉じ、少女の紅い唇は次なる話を紡ぎ出すために、小さく開きかけた。
 仙人の長(おさ)の住まいである水晶宮は相変わらず、清らかな光を輝き放っている。