ZOIDS 外伝 惑星間戦争 1話
ウォーリアたちは残念がってその場を離れていった。
若いウォーリアだけは、その場に残った。
「アッシュ… ゼロの調子はどうだ?」
「だいぶいいですよ。あいつとの連携もだいぶ取れて…。ここまで育ててくれたのは中佐だからな。」
「ふっ、まぁ、まだまだってところだな。だが、お前には見込みはあると思っていたよ。それだけに、お前にだけはちゃんと挨拶をしておこうと思っていた。ついてきてくれるか?」
グレッグがそう言うと、アッシュは頷いた。
ロブ平野の海岸線。そこから見える先には、中央大陸が存在する。
「中佐は、本当はこの後戻ってこれないんじゃないかって思ってるんだ」
「へぇ、そりゃまたなんで?」
「なんとなくさ。」
素っ気ないその言葉に、グレッグは逆に緊張感を感じた。
「正式な命令ではない。というか言ってしまえば、俺が勝手に取った有休だ。任務ではない」
「あんたがそういうのをするっていうのは珍しいって思うぜ。何か、あるんだろ」
「あるかもしれんな。お前さんが俺に対してなんとなくで言ってるように、俺もなんとなく何かを感じて動いている。」
波が海岸線に広がり、ざわめきを感じる。
「…アッシュ、この波のように、押しては退く。時代の流れっていうのはそういうものだ。今は平和という時代。波が引いてるんだ。だが、波はすぐに」
「押してくる。だろ。中佐は歴史の話が好きだな。」
アッシュは、波に流されてきた小石を拾って投げる。
小石はすぐに波に流される。
「俺たちにとっちゃ長い時代だが、波という時代の流れからするとあっという間なもんだ。」
「そして俺たちはあの小石のように流される…か。」
アッシュのそんな言葉に、グレッグは注目する。
「歴史上、優れたゾイド乗りっていうのはたくさんいるが、お前さんが一番尊敬しているのは誰だ?」
「またその話か。だが、答えられないこともないぜ」
アッシュは自信満々に答えた。
今まで彼はこの問いに答えられたことがない。
なぜなら、歴史を彼は知らないのだ。
悪く言うと、無勉強。
「ゼネバス帝国のパイロットたちは優れていたな。ダニー・タイガー・ダンカン、トビー・ダンカン兄弟は当然あげるとして、人体能力も優れていたフランツって人なんかも候補に入る。共和国の連中は、どうも知識層が多い感じで好きじゃない。オルディオスに最初に乗ったクルーガって空軍パイロットの破天荒さは好きだがな。」
候補をあげていくアッシュに、グレッグは少し驚いた。
「いつの間にそこまで覚えたんだか」
「これ、すべてあんたが話したことだぜ」
「俺そんなに話したか。」
「もっと話したな。」
そんな風に答えるアッシュに、グレッグは苦笑せざるを得なかった。
「で、結局誰が尊敬できるんだ」
「アーサー・ボーグマンかな」
「ずいぶんまた飛んだな。だが、戦時中のライガー乗りとしてはあの人物が一番かもしれんな。敵前逃亡を疑われたが、後の調査で、デススティンガーを大破させていたという記録があるな。」
「…だが、本当はもっと尊敬したい人物がいる」
「それは?」
「レイ・グレッグ」
「はぁ…」
グレッグは大きくため息をつく。この男、アーサー・グレッグは、自分の父の話をされるのは嫌いだった。
「あの男は、ゼネバス系民族の出身でありつつ、皇帝ヴォルフ・ムーロアと対峙した男だ。彼は、死ぬために戦いにいった者だ。あの男は…」
「その後のレイ・グレッグの事も調べたさ!」
アッシュがそう続けるので、アーサー・グレッグは黙った。
「自身のあり方を改めようとしたんだろう。死地に赴く戦い方を好みながら、皇帝ヴォルフとの邂逅で自身が揺らぎ、皇帝ヴォルフとの決戦の後、戦後処理が行われてもう平和になる世界で、自身は要らない存在だと思わずに、自身を活かす方法を探した。俺はそんな彼のあり方にあこがれたよ。」
「だがゾイドパイロットとしての在り方はどうなんだ」
「レイ・グレッグは、師匠のような存在だったアーサー・ボーグマンの意志を継いで最高のゾイド乗りになることを目指したんだろ。そして、ゾイドバトル連盟結成の一旦を担った。」
「(こいつは…)」
本当は何も知らないアッシュに、その無垢さに少し憎悪を感じた。レイ・グレッグは、確かにゾイドバトル連盟の結成を担った男だ。だが、その一方で、緊急時のウォーリアを徴兵する規約を作ったのも、レイ・グレッグなのだ。
だが、その後の言葉にアーサー・グレッグは驚いた。
「だが、俺は軍人にはならない」
「アッシュ…」
アーサーはその言葉を聞いて安心感を得た。
更にアッシュは続ける。
「俺も東方大陸まで行くとするよ。あっちでもゾイドバトルは行われるらしいからな。それに」
アッシュはこの海を見た
「この海の先に、西方大陸しか知らない俺がまだ見ぬ世界があって、そして、まだ見ぬゾイド乗りや、ゾイドがいる。俺が探し求めてるのは、伝説のゾイドって呼べるもんだった」
この話は昔から変わらなかった。
アッシュと出会った時から、アッシュはその夢を語っていた。
伝説のゾイドを探す。
そのためにウォーリアになる。
そんな言葉をいつもアーサーは聞き続けていた。
「そうか、なら早めに行くがいい。状況は思うほど、緩やかではないかもしれん」
「ああ…」
その言葉を交わして、二人は別れた。
だが、すぐ、彼らは再び出会う。
戦場で。
恐らく、その時、彼らは共に戦う。
そんな予感を彼らは感じさせていた。
中央大陸のウィルソン湖の研究所は、大規模なものだ。
戦時中からたくさんのゾイドを研究し、ロールアウトさせていった。
考古学的な研究も研究所の研究分野にあたる。
あの盗賊との戦いの後、色々と回収を行ったカミカゼ大尉一行は、このウィルソン研究所に直接、届けていた。
「うーん、このデータも使い物にならなさそうね」
エレシーヌ女史がそう言う。
回収された200年前近くの、傷一つない骨董品のゾイドたちの端末に残るデータは全てダウンロードされ、研究所のスーパーコンピュータの元で解析されていた。
「このゾイドたちは多分、地球人がゾイドの研究の為に使ったのよ。それでずっとあの場所にあったんだわ」
「帝国だけでなく、共和国のゾイドも存在したな。どうやったら両軍のゾイドを集めて中立を保ったのかはわからんが、恐らく、ロクな物は残ってないんだろう。」
そばにいるカミカゼがそう言った。目の前の強化ガラスから、格納庫が見え、回収されたゾイドたちが並べられているのが見える。
「ところであの子は?」
「保護した少女の元にいるんだろう。あの小僧、ずっとあそこにつきっきりだ。」
そう言って、カミカゼも再び懐から、回収した一つである、日記を取り出した。
押し黙るカミカゼに、エレシーヌは聞いた。
「ねえ、あんたそれなんで読めるの?私も読めるわけないし、あの子だって読めなかった。それはなんなの?」
迫るように聞いたエレシーヌに、カミカゼは後ずさりした。
「おいおい、そう焦るな。まあ、これは俺の家系でしか読めないものであるからな。」
「あんたの家系ってなによ」
「まあ強いて言えば、地球人家系だ」
「はぁ?」
エレシーヌは肩をがっくりして言った。
作品名:ZOIDS 外伝 惑星間戦争 1話 作家名:カクト