ZOIDS 外伝 惑星間戦争 1話
第1話「Ziを覆う船」
惑星にはいくつかの大陸が存在するが、歴史上、大規模な戦闘が行われた大陸は3つに絞られる。中央大陸、西方大陸、暗黒大陸。中央大陸にはヘリック共和国の本土。暗黒大陸にはガイロス帝国本土が存在し、西方大陸には各諸国が集まる合衆国エウロペイが存在する。
各大陸でゾイドバトルは行われる。ゾイドバトルを主催するゾイドバトル連盟は、国家から独立した機関ではあるが、それに対し資金援助をしているのは各国に他ならない。
それがどういう意味を持つのかは、ゾイドウォーリアーたちには大した話ではない。
興味もないし、ただ、その援助する資金で自分たちが円滑にゾイドバトルを楽しむことができるということだけ認識していた。各国が娯楽を提供していると。
「資金援助に代わり、いざとなった際の、軍事的援助を、ゾイドバトル連盟は各国に惜しまない。」という密約が連盟と各国の間に存在する。
それは、つまり戦争に彼らを駆り出すということである。各大陸に所属するウォーリアーたちは当然、その規約が発動された時、その大陸を本土とする各国の軍人として戦うことになる。
当然こんな徴兵的な規約がウォーリアたちの中で認められるはずがない。だが、戦争は強制的な部分を十分に兼ね備える。
彼らが騒いだときには時既に、彼らは戦場に身を投じているのだろう。
ある種、ゾイドパイロットの育成ということでもある。
だが各国が視点に置いている戦争とは、各国間ではない。
各国間での戦争であれば、今頃各国で優秀なウォーリアの取り合いが始まっているだろう。
各国は、ゾイドバトル連盟発足時から、外敵の存在に目を向けていた。
外敵の存在を主張したのはどの人間かはわからない。
だが、グローバリーⅢがグランドカタストロフの混乱で消えているという事実は戦時中からも発覚していたことで、戦後、その事実に目を向けられるようになった。
平和となった世界で、人々は弱体化していくもので、それを先んじて防ごうとしたのが、戦後に用済みとなる軍人。戦時中の英雄たちであった。
戦争を無用に避け、かついつでも強靭な軍事力を持ち続ける。
ヘリック、ネオゼネバス、ガイロス、はたまた企業間においてもそれは主張された。
その結果が、ゾイドバトル連盟の発足であった。
西方大陸のロブ平野。かつての大戦でヘリック共和国の最大軍事拠点が置かれたこの地には、ゴジュラスMK2の銅像が置かれている。正確には、ゴジュラス・ジ・オーガの銅像である。かつてのこの平野での会戦で、危機的状況を1機で覆したゴジュラス・ジ・オーガとそれに搭乗した傭兵の物語がここでは語り継がれ、その傭兵が西方大陸出身であることから、西方大陸ではちょっとした英雄伝説となっていた。
その銅像のすぐ傍に、コロシアムが存在し、機能は戦時中ほどのものではないものの、ヘリック共和国傘下のロブ基地も存在する。
コロシアムではゾイドバトルが行われ、毎週のように歓声がわめきあう世界でもある。
コロシアム以外でも、野戦形式のバトルは行われる。むしろ、そちらのほうがメインで、コロシアムの方も活発ではあるものの、ここ最近はウォーリアたちの模擬戦や訓練のために使われることも多い。
ちなみに、その模擬戦や訓練に付き合うのが、ロブ基地の軍人たちであった。
軍人たちにとっても、ウォーリアたちとの模擬戦は糧となる。
そして何より、ウォーリアたちから、目標とされる基地の軍人が存在した。
「グレッグ中佐。今日もウォーリアたちが模擬戦を申し込んでいますよ」
基地の司令塔で、宿直を兼ねていたグレッグと呼ばれる士官が、部下に呼ばれる。
「今日は断っておいてくれ。流石に一昨日昨日とあんなにバトルをした後で、俺もライガーも疲れきっている。整備も終わってないんだろう?」
「ええ、まあそうですが。確かにあれからゼロファルコンの整備も怠っていたためか、だいぶ機体への疲労は高まっていますね」
部下が申し訳なさそうに言う。
「俺自身の体の整備も行いたいもんだ。ああ、カミカゼはどうした。あいつとあいつのゴジュラスを呼び寄せれば、やつらにもひけは取らんだろう。」
面倒くさそうにグレッグ中佐は、手に取ったコーヒーカップを口につけ、啜る。
「いや、大尉殿は今は本土でのとある調査に出かけているので…。1週間は戻ってこないかと。」
その言葉に、グレッグは興味を示した。
「そういえばここ最近姿を見せないと思っていたら本土に戻っていたのか。あいつは何をしているんだ?本土で」
「調査、としか聞いていませんが、おかしいですね。大尉殿ほどの腕の持ち主がただの調査に出向かされるなんて。ただ、その調査には色々民間の手も借りているとかなんとかで。大尉ご自身の直属部下も引連れたそうですよ」
部下のそんな話に、グレッグは不傾げ顔をする。
「何の調査だか気になるもんだな。しかし、本土か。」
グレッグはコーヒーを飲み干すとカップを部下に持たせて言った。
「休暇の手配を用意してくれ。ここ暫く、家族とも連絡を取ってないからな。少しの間、休暇を取らせてくれ。」
「は、はあ。しかしまた急に。」
「まあ、本土にも少し戻りたくなってきたところだ。ああ、ゼロファルコンもそのまま運び込めるようにしておいてくれ。うちの子供は俺のゾイドが好きだからな」
そういう風に言ってグレッグは白い歯を見せて部下に言った。
グレッグは司令塔の司令室を抜け出し
「本当は、ヤツが何をしているのか気になるというところだが…。ヤツが出向かされるような調査。山脈付近はヤツなりの腕の持ち主があれば妥当なところだろう。だが結構なところは戦後調べつくされたはず。…いや、一つだけ…」
グレッグはそう思い立ち止まった。
「ゾイドウォーリアの連中に、最後になるかもしれない挨拶はしておいたほうがよいかもしれんな」
グレッグは翌日、部下が素早く手配してくれた連絡船に積まれる愛機ライガーゼロファルコンを眺めながら、港からくる潮風にあたっていた。
「グレッグ中佐殿!」
聞きなれる声が彼に聞こえてきた。
走り寄る彼らはゾイドウォーリアの集団だった。
その集団の先頭に立つのは、青く深い色の髪のまだ若いウォーリアだった。
「アッシュたちか。これから挨拶に出向こうと思っていたのに、先にくるとはな」
「中佐。勝ち逃げするんですかい?」
他のウォーリアたちの声だ。
先頭にいるアッシュは何も言わない。
「いや、すまんな。流石に軍の人間としての務めを果たさなくてはならなくてな。すまないが、暫くお前たちの相手はできん」
「おいおいまじですか中佐殿―」
ウォーリアたちが残念がるように愚痴を漏らす。
実際このウォーリアたちはグレッグにしつこいとも言えるレベルで付きまとい、グレッグを捕まえてはゾイドバトルの模擬戦に駆り出した。
グレッグはなんだかんだでそれを断ることはなく、今まで何回も戦い、そして未だ一度も負けたことはない。
だが、この先頭にたつウォーリアだけは、可能性があった。
「というかここは一応軍の敷地だ。お前らはさっさと去れ。どうせ1週間もすればまた戻ってくるからそれまで辛抱してろ」
「ちっくしょー!今日こそは中佐殿に勝つために色々準備したのにー!」
作品名:ZOIDS 外伝 惑星間戦争 1話 作家名:カクト