エイユウの話 ~夏~
「一人で行きゃいいだろ」
「あのでかいプール内を、女の子一人に探せというわけ?」
「出来ないほど淑やかな女の子なら、『でかい』じゃなくて『大きい』だろうな」
キサカは敢えて馬鹿にするような笑みを浮かべ、彼女を見下ろした。ラジィも背が高い方ではあるが、男で背の高いキサカには敵わない。ただでさえ怒っていたラジィを憤慨させるには、十分な行動である。
見かねたキースが勇気を出して、二人の間に割り込んだ。
「僕が行こうか?」
「結構!」
ラジィは怒りのままにキースの申し出を叩き落として、更衣室へ戻っていった。更衣室を通らずにプールに行く方法は無い。キサカは怒りのままにフンと鼻を鳴らし、キースはショックで大きくため息をついて頭を垂れた。
また、更衣室を通るということは、いちいち分かれてから待ち合わせて探し、見つけてから再び分かれてもとの場所に戻ることになる。それはかなり面倒だろうとキサカは考えていた。二人をくっつけるためなら、努力は苦ではないようだ。もともと彼女は努力家ではあるが、それも恋愛がかかわればより一層ということだ。
それから五分もたたないうちに、ラジィは再び戻ってきた。彼女曰く、
「更衣室のロッカーの中に落ちてたの!」だ、そうだ。どうせなくした振りをしていたに違いないと、キサカはひそかに嫌悪した。ラジィの人となりは否定しない。けれども行動的というよりは暴走的であると、出会ってまもなくから彼は感じていた。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷