エイユウの話 ~夏~
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私は即座に男に魔力の扱いについて教えることになりました。彼が住むという小さな山小屋に案内された私は、すぐに魔力の扱い方について教えようとしました。しかし、男がフードを取った瞬間、私の試みは大きく揺れ動きました。
男の頭部に、動物の耳のようなものが生えていたのです。私は思わずそれをじっと見つめてしまいました。そんな私に、困った様子で男は尋ねてきました。
「この頭が相当珍しいのか」と。私は声を出すことも忘れ、口をぼんやりとあけたままコクリと肯きました。
すると彼は、重ねて「私のそばにこういう人間はいないのか」と聞いてきたのです。もちろん否と答えました。そして私は、やっとその原因を尋ねることができました。すると彼は、ある肉を見せました。異色ではありますが、つやつやとした普通の肉です。次に彼の発した答えに、私は呼吸すら忘れてしまいました。
その肉が、魔物の肉だというのです。
――――――『黄金の術師(ジャーム・エワ・トゥーロル)』第一章第二部より抜粋
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷