エイユウの話 ~夏~
涙がまだ止まってないのに。そんなことを考えているキースはただ一人、中庭に取り残されていた。走り去るラジィを追いかけたかった。疎外したつもりはないと、騙す気もなかったと、必死で理解を得たかった。が、キースにはその権利があるとは思えなかったのだ。
―――周知の事実を隠され続ける気持ちを考えろよ!
あのとき、どうしてキサカはそう思ったのだろうと不思議に思った。それは、キース自身がゼロの確率に賭けていることに気付けなかったからだ。エメラルドの瞳は、本物の湖面のように揺らぐ。
キサカの言うことが正しかった。あのとき、すでに彼はこうなる事を予期していたんだ。そう思うと、キースはよりいっそう自分が惨めに思えた。
「最低は・・・キツイよ・・・」
いつも皆で騒ぐ中庭の、不気味ほど真っ黒な雨雲の下で、綺麗な金色の髪を雨に濡らしながら、キートワース・ケルティアはただ一人、涙を流していた。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷