エイユウの話 ~夏~
キサカの元にたどり着いたキースは、心配そうにラジィの行った方を眺めた。夕日で赤くなった廊下と、日光を反射する金色の髪が幻想的に交わる。そしてそれは少し寂しくも見えた。まるで置いていかれた子犬のように。
「遅刻してでも来んじゃねぇの?」
キサカが呆れて声をかけた。心配するにもほどがあると思っているのだ。しかしキースは困ったような顔で、ラジィの行った方と、キサカの顔、アウリーをきょろきょろと何度も見る。どうにも煮え切らない様子だ。
「・・・それは、そうなんだけど」
「他に何か?」
「いや・・・」といったんは否定して、元の向きに一歩踏み出す。しかし、すぐにキサカを見上げた。
「やっぱり、僕行くよ。アウリーとキサカは先に行ってて」
今まで気遣っていたアウリーをキサカに預け、キースは踵を返す。そのままパタパタと駆けて行った。
先ほどまで多少なりとものぞいていた太陽の姿が見えなくなった。おかげで灰色の雲が一面に広がっている。そんな中に残された二人は、追いかけるキースの背中を見送っていた。キサカが視線を少しずらすと、悲しそうにキースを見るアウリーがいる。明らかに落ち込んでいるので、キサカは空気を変えるためにわざと大きな声で言った。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷