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エイユウの話 ~夏~

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 結局重たい雰囲気のまま次の教室へ向かうことになった。止まることはなかったが、どうものろのろとしていて、授業に急いでいる様には見えない。天気が悪くなってきたのも、その雰囲気を助長していた。
 罪悪感から生じた逃避願望なのか、キサカはアウリーに気を遣うことなくすたすたと歩いていく。彼の足を速める二人目の元凶であるラジィは、まるで彼が逃げるのを防ぐかのように、彼の後ろをその歩幅に合わぬスピードで歩いていた。指定鞄を漁りながら歩いているため、肩かけ紐が彼を責めるようにびしびしと当たっている。涙が止まったアウリーは、倒れたり何したりで疲れてしまい、速いスピードで歩くことが出来ずに残されていた。が、彼女を気遣うようにキースがついていてくれるので、彼女が一人になることはない。彼女はそこに幸せすら感じているとは、さすがに誰も気付いていないようだが。
 不意に、ラジィが大きな声を出した。真後ろで出された声に、キサカは不機嫌に振り返る。何か言われる前に、ラジィはさっさと内容を口にした。
「教科書が・・・ない」
 足を止めて、より乱暴にガサガサと鞄を漁り始める。振り返って初めてキースとアウリーとの距離に気付き、キサカも足を止めた。だが、アウリーが近づいてくるたびに罪悪感も募ってきて、ついラジィを急かす。
「前の授業のなんて、後から取りに行きゃいいだろうが」
「次の授業のよ」
 手のひらに乗りそうなサイズの二人が足を止めたことに、後ろを歩く二人が気付いた。動作から、また喧嘩しているのがわかる。聞こえてくる言葉から、頭脳明晰な二人はすぐに状況を理解した。
 引き返したラジィが、二人の横を駆け抜ける際に告げていく。
「ちょっと教科書取りに戻るね!」
 部室に戻らねばならないのなら、きっとそこから直接教室に向かうのだろう。次の授業は教義魔道初級なので、最高術師以外は皆自由選択だ。つまり、出なくとも全く影響ないといえる。まあ、彼女の場合は遅刻してでも出席するのだろうが。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷