エイユウの話 ~夏~
「あいつの今日の首掛け、流の導師からのもらいもんだとか言ってなかったか?」
ペンダントを首掛けというところが彼らしくて笑える。失笑しながら、キースは説明した。
「ああ、あれは純粋に『もらい物』だから」
禁止されている「もらい物」とは、つまりは「贈り物」のことであり、不要なモノを貰った場合は適用外だ。あのペンダントは、確かにラジィがねだったものだ。けれど、もともとラジィのために買ってくれたのかは不明で、それこそ保険医のために買ったペンダントの使い回しというほうが妥当に感じる逸品でもある。本人には死んでも言えないことだが。
謎は解けたが、疑問が残った。もらい物と贈り物の違いが、キサカには解らなかったのだ。しかしそれを考えるのも放棄して、キサカは再びごろりと横になる。そして、今までの話を振り返って感心する。
「にしても、よく流の導師も許すよな」
常人なら我慢できなくなっているところだ。自分の行動が逐一把握され、ちょっとしたふるまいが原因で争いが生まれるかもしれない。普通だったら怖くて動けなくなりそうだと身震いする。冷酷の導師と呼ばれている人間なら、なおさらその限度は低く思えるが。
「導師様は優しいお方ですもの、当たり前でしょ?」
キサカの頭のちょうど上に、ラジィが現れた。もともと自信家で態度のでかい彼女は、下から見上げるとなかなかの迫力だった。身長の関係もあって見下ろすことが多いので、キサカが不思議に感じる分、彼女は得意げに感じているのかもしれない。しかしそれとは別に、彼の眉間にしわが寄る。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷