エイユウの話 ~夏~
「・・・どうなっても俺はいいけど、同情するな。同性として」
「宣愛活動は派手ですからね」
「王様の命令だよね」
「王様の命令」とはこの世界の慣用句のようなもので、慈善を掲げて悪業を行うことだ。王様の命令だからと悪事を働いた過去の軍隊を皮肉ったのが始まりという。またそんな軍隊が何度も歴史上に出ているため、同じような悪行が繰り返されることに使われることもある。
「他にも、抜け駆け禁止とか聞いたことありますよ」
「抜け駆け禁止?っつーか、抜け駆けって何だよ」
いくら恋愛に疎くとも、抜け駆けが何たるかくらいは、キサカだって知っている。だが、術師と付き合うことも出来ないはずの導師相手に、「抜け駆け禁止」がどういう効力を持つのかまでは知らなかった。
しかし、アウリーも詳しくは知らないらしい。彼女は首をかしげながら話す。
「一説によると、導師様と二人で話してはならないとか、物をもらってはならないとか。あ、でも、くれたときに断るのも駄目だそうです」
「よく解んねぇな」
アウリーの説明に、キースはそこまで詳しくは知らなかったようで、驚きながら耳を傾ける。けれどもキサカは考えることを放棄してまた寝転がった。流の導師の話に恋愛が絡めば、彼の理解できることは事実的なことだけである。誰かの感情まで察することは出来ない。
しかしすぐに起き上がり、二人に尋ねた。午前のラジィの話を思い出したのだ。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷