エイユウの話 ~夏~
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授業がない二人は、もともといた中庭に戻ってきた。色味のない建物から、鮮やかな緑の中庭に出ると、目がチカチカする。風に揺れて短い草がそよそよ動くと、風を視覚的にとらえられている錯覚も感じた。
先ほど話していた木の根元に向かうと、そこには見覚えのある先客の姿が。
「キサカ?」
強すぎず、弱すぎない風に吹かれて、今にも眠りそうになっている、薄紅色の頭髪を持った少年。それは先ほど授業があると言って、姿を消したはずのキサカだった。アウリーはキサカが気を遣ってくれたのかと驚く。しかしその後の会話により、すぐに違うことが判明した。
「どうしてここに?」
「うるせぇな」
キサカは妙に不機嫌だった。出所のわからない彼の怒りを感じながら、キースとアウリーは思わず顔を合わせた。もう一度、二人はキサカに視線を戻す。
「授業だったんじゃないの?」
キースがもう一度尋ねると、彼はキースとアウリーの顔をそれぞれ見てから、眉間にしわを寄せてごろりと寝返りを打った。そして少しいじけたような声で一言。
「・・・正規のサボりだ」
つまりは出なくてもいい授業に出てしまったらしい。だからと言ってアウリーを迎えにいったキースを追いかけるには多少時間が過ぎてしまって、どうせ戻ってくるだろうと踏んだ彼は、一人中庭で夏の太陽を浴びていたと言うわけだ。この世界では、冬が寒い分だけ夏が涼しい。日中中庭でごろ寝しても、快適以外の言葉が出てこないほどだ。彼が怒ったのは、彼の失敗を掘る話題をキースが悪意なくとも振ってしまったためだった。
いじけていたキサカは、すぐに仰向けになって上体を腹筋だけで起こした。再び上体が落ちることのないよう、背中側に腕を伸ばして背中と地面の間に三十度を作り出す。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷