エイユウの話 ~夏~
「俺も行くわ」
その進言にラジィは愕然とし、頭をフル回転させて何とかキサカを留めさせようとする。
「な・・・っ!次は中級魔術学なのよ?流の導師様の授業なのよ!授業サボりまくりのあんたが休んで良いと思ってるわけ?」
ちなみに上級は卒業資格取得者しか受けられない。彼女の説明では、二人の出席を心配しているのか、キースとアウリーを二人きりにしたいのか、流の導師の信頼問題に関して気にしているのか、はっきりとは解らなかった。もしかしたら全部かもしれない。それでもキサカは飄々と返した。
「その条件ならキースも同じだ。それに、アウリーを保健室に連れてくって言う立派な口実があっから、サボりじゃねぇよ」
「そんな詭弁が通るわけ無いでしょ!」
彼女の本心を推し量ることは出来ないが、少なくともキサカを説得させるにも、脅迫するにも力不足な言葉しか紡げなかった。それを自覚して、彼女は手を強く握り締めた。こんな些細なところでも、最高術師と次高術師の差を感じてしまうのだ。もちろんこれはそんなものじゃなくて、口から生まれたキサカが相手だというところが問題なのだが。
キースに声をかけたキサカは、保健室の方向へ歩き出してしまった。具体的な言葉も出ず、言葉にならない声を出して、しばらくラジィは三人の背を見つめる。結局彼らの背中が見えなくなるまで言葉を変えることができなくて、ラジィは一人残された廊下で叫んだ。
「何考えてんのよ!もうっ」
彼女は踵を返して、そのまま彼らが休む言い訳を考えながら、ズカズカと大股で歩いていった。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷