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人情日常大活劇『浪漫』

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 硬質ゴムを用いた弾を使い、人殺しだけは徹底して禁止しているが、もはや前科ものどころではない。これで僕も、国家反逆罪に問われる身となったわけだ。
「大和!」
 純白のウェディングドレスに身を包んだ涼子さんが、僕を呼ぶ。その姿はあまりに神々しく、美しい……なんて言っている場合ではないな。
「どうも、涼子さん。助けに来ました」
「お前……」
 涼子さんは顔を紅潮させ、全身をわなわなと震わせていた。信じられない、という顔だ。
「この……大馬鹿野郎! なんで来た、なんで来た! それも、なんだこの連中は! 影朗に蓮まで! これじゃ、まるっきりテロリストじゃないか!」
「んー、まるっきりっていうかー」
 拳銃を両の手に蓮さん。
「テロリストそのものですな」
 機関銃を上へと向け、笑いかける影朗さん。
「今言ったじゃないですか。助けに来ましたって」
「んな……」
 驚愕に口を開く涼子さん。そこまで意外かな。
 続いてその目はつりあがり、怒りの表情へと変貌する。
「迷惑だって言っただろう! なんでお前がここまでする必要がある!」
「好きだからですよ」
「──!」
 驚愕を通りこして、感情が停止する涼子さん。ここまで驚かれると、来た甲斐があったというものだ。
「好きなんですよ、僕は。涼子さんも、涼子さんの作った『浪漫』も。政治家だろうと合衆国だろうと、その場所を壊すような輩は  ぶんなぐって、ぶっ飛ばすだけです」
 ぐ、と。
 涼子さんに見せつけるように、僕は、握りこぶしを掲げた。
「は、はは……」
 強直した顔を緩めませて、ため息とともに、涼子さんはうなだれる。全身の力が抜けたようだ。
「全く、馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど……あんたも、蓮も影朗も。底抜けの大馬鹿だったんだな」
「笑顔で言われても、説得力がありませんなぁ」
「行くよ、お涼ちゃん! 居たくもない場所なんて、いる必要ないんだから!」
「だはは……よし! 行くぞてめえら!」
 言って涼子さんは、長いウェディングドレスの裾を、自らの手で破る。その様は、雄々しくも力強く、それでもなお  美しかった。
 僕らは銃を手に、会場を駆け抜ける。今更、僕らを止められる存在なんて、いるわけがなかった。
  
*   *   *

 会場の外へと駆け出したところで、軍服連中が火力発電車を回していた。
「用意のいいやつらだな」
「とりあえず、これでしばらく旅ですな。落ち着けるところまで流れるとしましょう」
「よっしゃ、さっそく行くとする……って、大和? 何してんのあんた。乗らないの?」
 車に乗り込もうとする涼子さん、蓮さん、影朗さんに背を向けて、僕は会場へと目を向け続ける。
「これで、この縁談はご破算ですね」
「当たり前じゃん。そのつもりで来たんでしょ?」
「ここまでやれば、国家として思い切り、合衆国の顔に泥を塗ったことになりますからな。あちらももう、政略結婚などには応じないでしょう。となれば、もう涼子さんが追われることもなくなるでしょうな」
「でも、それじゃ……この国は救われませんよね」
 息を飲む音が、背後から聞こえる。
 確かに、涼子さんは望まぬ結婚をすることはなくなった。そのために僕らテロまで行った。そのことに後悔はない。
 けれど、ここまでのことを僕はしたんだ。影朗さんの言うとおり、合衆国の顔に泥を塗る行為を。
 こうなれば、国家間での友好にもひびが入るのは間違いない。『昇翼会』の思惑の通りだ。その亀裂はやがて大きな波紋を、双方に呼ぶ。
 最悪の展開として  徹底抗戦が成り、再び戦争が始まることだってあり得るのだ。
「大和……」
「涼子さん、僕は」
 振り返る。蓮さん、影朗さん、そして涼子さんの心配そうな双眸が、僕を見つめていた。
「僕は『昇翼会』に残ります。ここまでやった後始末を、付けなくちゃいけない」
「あ、後始末って……」
 蓮さんが驚愕に顔をゆがませる。
「あんた、何言ってんのかわかってんの!? 国家規模での犯罪者、その顔役になるんだよ!?」
「そうですぞ。たとえ組織にかくまわれるにしても、一生日陰者として暮らすはめに……!」
「いいんですよ」
 僕は、笑顔で言い放った。
 そう。これは、この計画を立てた時点で覚悟していたことでもある。
 この計画で犠牲になった人、そしてこれから犠牲になるであろう人達へ、できる限りの贖罪をする。それは、僕のわがままを通す上で、もう決めていたことだ。
 そんな決意を読み取ったのか、涼子さんが静かに口を開く。
「もう、決めてるんだな」
「はい」
「後悔しないか」
「しません。自分で決めたことですから」
「そうか……」
 涼子さんが、僕の方へと歩みを進める。一歩、二歩。手を伸ばせば届きそうな距離、そして  
 パン!
 両の手で、やさしく頬が包まれた。
「わかった。けど、いつか絶対戻って来い。『浪漫』で、待っといてやる」
「は……」
 『浪漫』で、待っといてやる。それは、その言葉は。
「はい!」
 僕に、帰る場所を与えてくれる。いてもいい場所を、与えてくれる。誰かを見捨てることも、絶望することもなく、ただ自分がいることを許される場所。それは、僕が心から望み続けたもの。心から願い続けたもの。
 そんな  心からの、贈り物だった。
「さぁ、行くよ!」
「おう!」「はい!」
 言って、涼子さんは車に乗り込む。影朗さんと蓮さんも続いた。
「大和! 絶対また会おうね!」
「再び、酒を飲みかわしましょうぞ!」
 窓から身を乗り出した大切な友人達が叫び、走り去っていく。僕はいつまでもその姿を見つめていた。
 心の中で必ずまた会うと、誓いながら。

エピローグ

「お涼さん、もう一杯!」
「お涼ちゃん、あたしもー」
「あいよ。あんま飲みすぎるなよ、あんた達」
 あの大活劇から数年後。涼子、蓮、影朗の三人が流れ着いた街で、再び始まった『浪漫』。この物語が始まり、終わる場所。 
 そこには日陰者になりながらも、陽気さを失わない人々がいつも集っていた。いつも通りの、そしてかつてのように、蓮と影朗が飲んだくれ、涼子は呆れながら酒を出す日々が続いていた。
「いやいや、今日はめでたい日ですからな」
「そーよ、戦争がなくなったのよ? 今飲まずにいつ飲むってーのよ」
 戦争は、あれから起こっていない。噂によれば、両国の間にパイプを持ち、思想をひるがえした『昇翼会』の若頭が調停役となり、政府との連携の許、戦争をせき止めていたという。そしてつい先日、両国の間で友好条約が結ばれたことが、新聞などのメディアに、ニュースとして流れた。
「あいつ……上手くやったみたいね」
「ですなあ……もう何年も会ってませんが、元気なのは確かなようですし」
「……そうだね」
 涼子たちは押し黙る。その胸に思い描くのは一人の若者。様々なことから逃げ出し、そしてそのたびに立ち向かった、懸命に生き続けていた少年。そして今もなおその生き方を続けているであろう、彼のことだった。
 今現在『浪漫』は涼子一人で切り盛りしている。なかなかに大変だが、誰かを雇いいれるつもりもない。なぜなら、その席は、彼の──あいつの居場所なのだから。   
 
 がらがらがら
 
作品名:人情日常大活劇『浪漫』 作家名:壱の人