人情日常大活劇『浪漫』
「あ、いらっしゃい。なんにします?」
入口である引き戸が開かれる。そこにいたのは、中肉中背。どこかさびしい目をして、少年の面影を残した人物だった。
「仕事を探しています。巻き割りでも煮炊きでもなんでもいいですけど、できれば住み込みで。給料は──働きを見てって感じですかね。ありますか?」
店の中が、その場にいた人々が、完全に固まった。その表情が笑顔になるまで少しの時間が必要だった。
なぜなら、その声は、その姿は。あまりにも──懐かしいものだったから。
「ああ……もちろん。採用だよ、大和」
その日の酒宴は、朝が来るまで、決して止むことはなかった。
(終わり)
作品名:人情日常大活劇『浪漫』 作家名:壱の人