初音ミクは悲劇のヒロインになる
・初音ミクの音楽、を歴史的に見ると
初音ミクを使った楽曲は、既に世界中で作られており、今この時も誰かの手によって作られていることを考えると、その数はもはや数えることは不可能だろう。
そんな無数に作られている中から歴史の変化を見るのはなかなか難しいが、ここではその代表曲をいくつか紹介する。
「メルト」 ……初音ミクといえば、この曲を思い浮かべる人も多いだろう。2012年現在、ニコニコ動画では850万回再生という驚異的な数字を出している。彼女の独特の声質と、ポップなメロディが、見事にマッチしている曲だ。
「Tell your world」 ……googleのCMに起用された楽曲。CMでの映像も、初音ミクを使って世界中の人が様々なメディアや表現で繋がり、広がっていく様子を表している。
「初音ミクの消失」 ……この曲は上記の2曲に比べれば知名度は低いが、イントロ等で人間では歌うことが不可能なスピードで歌うフレーズがある。これはVOCALOIDならではと言える。ボーカルというよりも、VOCALOIDを一つの楽器として使っている曲の一つ。
「初音ミクロコスモスシリーズ」 ……バルトークが作曲した「ミクロコスモス」というピアノ曲集の楽曲を、全て初音ミクの歌声で再現したシリーズ。その数は150曲近くに及び、近代的で軽蔑されやすいバルトークの楽曲を、初音ミクを起用することによって、多くの人に知って楽しんでもらえるように工夫されている。
「まいまい-My mi(nd)--」 ……自作の初音ミクを使った楽曲。初音ミクを4パート使った変則フーガ。変化の無い無機質な初音ミクの声があらゆる方向から聞こえることによって、生命の誕生と現代社会の混沌を表現している。
これらはそれぞれ個性的で初音ミクを単一のボーカル以上の表現方法をしていて、VOCALOIDが新しい一つの楽器になっている、と言える。
とはいえ、初音ミク、という存在やVOCALOIDの仕組みは、歴史に名を残すかもしれないが、それらを使って作られた楽曲が歴史的に残るかというと、難しいかもしれない。何故なら初音ミクというボーカルや楽器が、もはやブランドやカテゴリの一つとなってしまっているためだ。
初音ミクを使った楽曲、というジャンルは確かに今現在存在している。しかし、それはあくまで編成や形態上のジャンル分けであり、楽曲自体は何らかのジャンルの曲のコピー、またはアレンジなのだ。
上記に挙げた楽曲以外にも、様々なジャンルを歌った楽曲や、実験的な楽曲もあるだろう。そして、今後も次々に作られていくだろう。その数はやはりユーザーの数だけ可能性がある。
そのような無限に溢れる初音ミクの楽曲を、私は歓迎する反面、やはり1章で述べた「悲劇」の幕開けが訪れてしまうのではないか、とも思う。
新たなジャンルや、音楽の形式の変化を起こすには、大きなムーブメントを起こすしかない。しかし、それを個人で製作し、自己満足してしまうようになってしまうと、たとえ才能の溢れた楽曲や新たな理論を編み出した人物が現れても、それらは無数の楽曲に埋もれ、誰にも理解されないどころか聴いてもらえないまま、個人の独り言に終わってしまうかもしれないのだ。
作品名:初音ミクは悲劇のヒロインになる 作家名:みこと