初音ミクは悲劇のヒロインになる
1 初音ミクと現在のポピュラー音楽
・ 初音ミクとは
初音ミクの存在は、今やミッキーマウスやドラえもん、ピカチュウと言ったようなキャラクターたちに追いつくぐらいの知名度を持っている、と言っても過言ではないだろう。
ニコニコ動画を開けば、再生数ランキングにはVOCALOIDを使った曲のPVがあり、Pixivを開けば綺麗な衣装を着たミクを描いた絵がアップロードされている。
最近ではレーシングカーのデザインに起用されたり、ファッションブランドやコンビニと
コラボされたり、GoogleのCMやNHKのクローズアップ現代にも取り上げられたりと、正に一つの社会現象になっている。
ここまで注目される理由に、まず「架空のアイドル」という新しいジャンルだということは、周知の事実だろう。しかしそのような存在は、漫画やアニメと言ったオタク文化の中には既にあった。また、そのアイドルを応援する対象が男女を極端に選ばないことも、現在のアイドルのカタチとしては珍しくない。
では、何故初音ミクに誰もが注目し、その魅力を感じるのか。
それは、キャラクターが産まれた元になった、音声合成ソフトVOCALOIDの影響が大きい。
VOCALOIDとは、ヤマハが開発した技術、及びその製品の総称であり、ソフト上でメロディーと、それに合わせた歌詞を打ち込めば、そのサンプリングされた人の声を元に、自動で歌声を合成させられるソフトである。詳しい説明はここでは省くが、このソフトは初音ミクがこの世に知れ渡る前から販売されており、初音ミクは、その中のVOCALOID2という二代目の製品のシリーズの一つだ。
VOCALOIDの魅力は、説明した通り「人の歌声に近いものを作れる」ことにある。それまでボーカルパートを作る場合は、生の人間がマイクに向かって歌った声を録音して使うか、ボーカルの声質に近い音源を使うという方法がほとんどだった。*ボコーダー等の例もあるが、今回の話とは関係ないので省略する。
それが、VOCALOIDが登場したことによって、人の歌声を機械的に作り出す*ことが出来るようになった。さらにそれを一つの音源ソフトとして売り出したことによって、そのソフトを使えば、誰でも歌入りの曲を打ち込みだけで容易に作れることになった。 *仕組みから言えば、機械的に作り出す、という表現はあまりよろしく無い。
誰でも音楽を作り出せる、という文化は、何年も前からDTMとして普及していた。それが今の時代になって、ソフトや周辺機器の技術の向上や価格の低下によって、多くの人の手に渡り、そのタイミングにVOCALOIDが登場したことによって、さらに個人で音楽を作り出すきっかけ、及びユーザーを増やしていった。
また、同様にニコニコ動画のような動画投稿サイトが出来たことによって、高い資金を掛けてCDを売ったり、テレビで紹介してもらうことなく、いつでも誰でもその人の作った作品を見たり聴いたり出来ることになったのも、ここまでVOCALOIDが世に出回った理由だろう。
また、音声合成ソフトにも関わらず、名前だけでなくパッケージに大きく初音ミクというキャラクターのイラストを起用したことによって、音楽以外のメディアにもミックスされていったことは、先ほど述べた通りだ。
かく言う私も、初音ミクに魅力を感じていて、彼女の歌声を使った曲もいくつか作っていたり、イラストの製作やフィギュア等の購入もしているほどだ。
しかし、そんな流行に乗っている中、一つの大きな疑問を持ったことがある。
それは、動画サイトに投稿されている初音ミクの音楽を聴いても「どれも同じに聞こえてしまう」ということだ。
もちろん初音ミクを知った当初は、彼女の歌声に興味を持ち、彼女の歌った曲も沢山聴いた。今でもお気に入りの曲はあるし、今後も増えていくはずだ。
では何故どれも同じに聞こえてしまう、と言ったのか。
それは初音ミクだけでなく、現在のポピュラー音楽も同じ、と言えば、少し分かりやすくなるかもしれない。
作品名:初音ミクは悲劇のヒロインになる 作家名:みこと