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かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
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ザ・愛国者

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「どうせ、今度の派兵は、裏で企みがあるんだ。一部の金持ち共が、俺たちのなけなしの懐から取った税金使って、私腹を肥やすためにさ」
「君たちのような愚かな子羊共は、いい使い走りにされやがっているんだ」
「自分たちが騙されていることに気付けよ」

民雄は、そんな言葉を浴びせられて、腹が煮えくりかえるほどむかついてきた。異常なまでの怒りが込み上がってきた。この左翼共! 反戦とかいいながら、自国を貶めることを、国民の連帯と秩序を乱すことをヌケヌケとしやがって。

ゆるさん! 民雄は、街宣車の運転をしていたが、思いっきりアクセルを踏み、集会場に車を突っ込んだ。
逃げまとう人々共に、ぎゃああと叫ぶ声。人が激しく、ぶつかり飛び上がる姿を車窓から見た。血のしぶきがあがった。車は、塀にぶつかり停まった。気が付くと、民雄も頭から血をだらだらと流していた。だが、まだ怒りが収まっていない。
車から出る。叫び声を立てる群衆に向かって、突進する。手には棍棒を持っている。
スキンヘッドに血を流す黒い服を着た右翼の男が、突進する姿に皆、慌てふためく。辺りは、血を大量に流した人々が数人うずくまっている。車に轢かれた人達だ。

民雄は、その人たちにも容赦なく襲いかかる。この非国民、ゆるさんぞ!

パトカーのサイレンが鳴った。警官がどっと押し寄せた。民雄は、一気に数人の警官に取り囲まれ、すぐに押さえつけられた。

逮捕され、留置所に押し込められて数日後、愛国党の弁護士らしき人物が民雄に面会しに来た。

弁護士の話では、民雄が街宣車で引いた人達には幸い死者は出なかったが、4名ほど重軽傷を負っているため、傷害罪が適用されるのが相当だが、実をいうと、不起訴の上、事件そのものをうまく揉み消して貰えるという。
「あの連中は、反日的なごろつきだ。あんな目に遭っても当然だろうと我々は思っている。しかし、参議院選挙も近くてな、愛国党としては、今度のことは思いっきり悪い影響を与える。だがな、思わぬところに援軍が現れてな。与党の民自党だが、我々と連立を組まないかと持ちかけてきた。選挙は与党にとっては情勢が厳しい。左翼野党に過半数を奪われるかもしれん。そうなったら、衆院で法案を可決しても、参院でことごとく潰される。それならば、愛国党と連立を結べば、衆参両院で過半数を維持できる。愛国党がキャスティングボートを握っているということだ。今度のことは民自党が手を打ってくれる。

それで何だが、君は本来、法律的には刑務所に入るべきなんだが、そうならない代わりに、君にふさわしい任務に携わってくれないか。というのは、参院選の後な、連立内閣で田父神党首が防衛大臣の地位に就く。連立政権では、中央アジアのテロ掃討作戦のため、現地に強力な特殊部隊を派遣する計画を秘かに立てている。そこでだ。君に、その特殊部隊の隊員になって欲しい。君のような勇ましい男なら、立派に成し遂げられるといえる。君の愛国心と勇ましさは今度の事件で証明された。自衛隊に入隊し、是非とも国のために戦って欲しい」


「国のため」という言葉に民雄は、心が激しく揺れた。あんな大それたことをしたが、国のためということで許され、その上、栄誉ある自衛隊で特殊部隊の任務に就かされる。有無を言わさず、承知した。

自衛隊に入隊、基礎体力強化訓練から始め、武器の使用訓練、その後、特殊テロ掃討部隊としての特別訓練。中央アジアの小国ズーランドの反政府テロ組織との戦闘を想定に入れた訓練だ。訓練の中身は、けっして公開されない最高機密。突入、殺戮、拷問など、想像を絶する過酷な内容だ。だが、民雄はやり遂げた。すべては愛国心からだ。愛国心こそが、支えであった。

国のため、ひいては世界の秩序の安定のためテロを潰す。そういう使命を与えられたと民雄は固く信じた。

半年の訓練が終わり、さっそく実戦配備となった。民雄の特殊部隊は、自衛隊のなかでさえ存在を知られていない部隊。することは、容赦なく敵を殺しまくる。

行き先は、ズーランド。ズーランド政府の空軍基地から、テロの拠点のある地方へ行く。ズーランドは民主政府を転覆させようとする反政府勢力がいるため、政情不安定だ。だが、日本、アメリカ、欧州などの諸外国にとっては、放置できないことでもある。なぜなら、ズーランドには石油、鉄鉱石、レアメタルをはじめとする鉱物資源が豊富にあり、輸入しているからだ。政情の不安定さは価格にも影響して世界経済に悪影響を与え続けている。そのうえ反政府テロは、政府側を支持する諸外国政府にテロ集団を送り込み、市街地の爆破などのテロ行為を繰り返している。

こいつらを叩かないと世界の平和と安定は保てない。さあ、出動の出番だ。

ヘリコプターで拠点となっているところに向かう。空中で止まり、ロープを吊り下げ、地面に降りる。石の住居が並んでいた。

さあ、突っ込むぞ。機関銃を持って、重装備の姿で仲間数人と共に殴り込む。まず、ドアをぶち破る。誰もいない。よし、二手に分かれ、片方は二階へ、民雄を含めもう片方は、一階を探る。どんどんドアをぶち破りかたっぱしから探り当てる。だが、情報と違い、この石の家の中はもぬけの空だ。

何てことだ。奴ら、俺たちが乗り込むことを察知して、一足先に逃げてしまったのか。ちくしょう、逃してしまった。

と、思ったとき、突然、耳元に激しい爆発音が響いた。民雄は、訓練の通り、とっさに体を伏せたが、しかし、どうにもならない。爆発で家そのものが崩れ落ちたからだ。

何時間経っただろうか、民雄は手足を縛られ、口に猿轡をはめられ、身動きも叫ぶことも出来ない状態だった。家が崩れたものの、瓦礫に挟まれながら息からがらの中、武装集団に救い出されたが、すぐに別の小屋に連れて行かれた。体中が打ち身を受け、何の抵抗も出来ない。武器も全て取り上げられ、仲間は瓦礫に埋もれて死んだか、銃撃で殺されたようだ。周到に練られた罠だったようだ。

民雄の目の前にはビデオカメラがあり、武装集団は現地の言葉で、何かを喋っている。とても感情の高ぶった様子だ。すると、突然、大きなナイフを取り出す。そして、民雄の首に向けて刃を突き刺そうとする。つまり、生贄として、斬首して、その映像を撮って、ネットで公開するつもりなのだ。これまで、他国の兵士や民間人が同じ方法で犠牲になっている。ついに自分も奴らのさらしものにされるのか。

「待って、やめて」という女性の声が、現地語だが、そういう意味であることが分かるような口調だ。若くて美しい女性が現れた。現地らしく、茶色い髪の毛にほりの深い顔。目から涙をこぼしている。

武装集団は、しばらく女性と話しをした後、ナイフをしまった。猿轡は外された。
「ねえ、大丈夫、わたしはナミアというわ」と女性が日本語で話しかける。
「どうして、日本語を話せるの?」ときくと。
「以前、日本に住んでいたことがあるの? 留学と仕事で」とナミア。
しばらくして、ナミアと彼女の仲間の武装集団と、彼女の通訳と片言の英語を介しての会話で打ち解け合った。
「わたしたちは、テロリストなんかではないわ」とナミアが言う。
「俺はそう教わった。政情を不安定化させ、今の民主政権を転覆させようとしていると」
作品名:ザ・愛国者 作家名:かいかた・まさし