ローラ×ローラ
「ローラ姫、た、大変でございます!!」
執事のリースマンが血相を変えて執務室へ飛び込んできた。落ち着いた物腰の彼とは思えない。私は何かあったのだろうと察知した。
「どうしました? また暗殺者が出たとおじ様がおっしゃったのですか」
「逆でございます!その逆でございます!」
逆とはどういうことなのか、私には理解できなかった。
「リースマン、あなたらしくもありません。少し落ち着いてください」
少し息を整えたあと、彼は言葉をつづけた。
「実は……今晩飲む予定だったドリンクに毒が混入しておりました。イワン様と姫様のお二人分だけでございます」
「ええっ!そ、それは、どういうことでしょう!?」
驚きのあまり、声裏返ってしまった。お父様と私のワインに毒物なんて……。
「言葉の通りでございます、今晩の夕食で出されるはずのワインとジュースにです」
「どうして、そのようなことが……」
「ザガンが無断で酒蔵のワインを飲んだことがきっかけでございます」
ザガンさんは、私が契約しているグレート・デーモンの一体だ。お酒が好きでよく蔵のワインをこっそり飲んでいる。
「すぐさま、他の飲み物に毒が盛られていないか確認させたところ、あろうことか姫様のジュースにまで……!先日の報復に違いありませぬ。いよいよ王配派が我々を排除しようと動きだしたのですぞ、姫」
先日の……というのは、「暗殺者騒ぎ」のことであろう。数日前に、王配つまりおじ様の政務室に怪しい男が忍び込んでいたという事件だ。結局、暗殺者(とおじ様が主張しているだけで何者かはわからないのだけど)は取り逃がしてしまった。
おじ様は、敵対している私のお父様の手の者だろうと決めつけ糾弾してきた。私やお父様、リースマンはもちろんそんな指示は出していない。おじ様を暗殺だなんて考えたこともない。おじ様の糾弾には何の証拠もないので、その件はうやむやになっていた。
「ベンヤミンは王位を我が物にせんと、とんでもないことをしでかしましたぞ。姫、断固たる処置をお願いいたします」
言葉を強くして言う。
「……リースマン、落ち着いてください。おじ様が……いくら、私たちと争っているとはいえ、暗殺だなんて。とにかく、とりあえずおじ様とお話しさせてください」
おじ様に話を聞かねば何も解決できない、リースマンとともにおじ様の執務室へ向かった。
「おじ様、ローラです。少しよろしいでしょうか」
重々しい扉をたたいた。私の執務室より立派なおじ様の執務室の扉は、長年政務を取り仕切っていた証でもある。
「返事がありませんな、このことを調査しておるのかもしれません」
「とりあえず酒蔵へ行きましょうか、そこにおられるのかも……」
と言いかけたそのとき、中から独特な甲高い男の声がした。
……お父様だ。何か、余計なことを言っていなければいいのだけれど。私たちは顔を見合わせ、扉を開けた。