ローラ×ローラ
「それはそうとローラ、さっき寝てたでしょ?アタシの目はごまかせないよ」
奥の依頼部屋に着くや否や、痛いところをついてくる。うっ……、バレてないと思ったのに。思わず目線を逸らしてしまう。
「えー、なんのことかなぁ。オレはただ屋敷にいたころの夢を見てただけだよ」
「えー、珍しいじゃん!屋敷のことは思い出したくないんでしょ?夢でもやっぱりフリフリのドレス着てたわけ?一度見てみたいよ、ローラのドレス姿。」
フリフリのドレス――それはオレにとって、数ある忌まわしい悪夢(トラウマ)の中の一つだ。身体が沸騰したように熱くなる。
「ユーン!! それは禁句だって、前にも言ったよね!? 喧嘩売ってるわけ!?」
ドン!とテーブルを叩いて、彼女を睨みつける。
「いいじゃん、ホントのことなんだし。アタシはアンタの可愛さが羨ましいよ。その美少女っぷりならきっと似合うんだろうねー」
オレがすごんでも全然怖くないのだろう。どこ吹く風といった調子で、筆記用具を準備している。相手がこの調子なので仕方ない。オレの怒りもフッと消えてしまった。
「……ったく。今、剣か刀があったら斬ってるよ」
「物騒だねえ、そんな調子だから普通の酒場で出禁になるんだって。でも、その美少女っぷりならきっと似合うんだろうねー。制服もパンツタイプじゃなくて、タイトスカートタイプにすればいいのに」
「絶対イヤ!!もう二度とスカートなんて履きたくない!」」
オレがコンフィチュールで働くことができる最大の理由、それは「女の子にしか見えない」ということだ。
大きくて、少しだけつりあがった目。幼い顔つきは16歳より下にさえ見られる。女の子にしても小さくて華奢な背丈。声変わりしても甲高いまま。手入れもしていないのに、憎らしいほど艶やかな黒髪。それを切らずにくくっているのもダメなのかもしれない。
とにかくこの外見のせいで、小さいころは女の子として義父に育てられ、屋敷を飛び出してからも女の子に間違われ続ける毎日。からかい、ナンパなんて日常茶飯事。ウリを持ちかけるおっさんも、オレを襲おうとしたバカも珍しくはない。……全員、血祭りにしてきたけど。
でも、ユーンはオレが女性には手を上げないことを知っている。それもあって、普通の人が言わないこともズバズバ言ってくる。「誰に対しても遠慮しない」「自由気ままでマイペース」がモットーの彼女に腹が立つこともあるのだが、そこがユーンの憎めないところでもある。オレは大きなため息をついた。
「何ため息ついてんのよ。……で、どんな夢だったの?」
「屋敷の窓から空を眺めてる夢、空にあこがれる夢。オレが昔しょっちゅう考えてたこと」
でも、最近は思い出さなくなっていたのに。いつ以来なんだろう、このことを思い出したのは。ふと窓の外を眺める。空はあの頃と何も変わらない。
「ふーん、どうでもいいや。じゃあ、依頼の説明始めるね」
話を振ってきたくせに、完全に聞き流している。オレの真剣な様子なんて見てもいない。
「もう、自分から聞いてきたくせに。マイペースすぎるんだから……」
「だって、どうでもよかったんだもん。それよりこれよ、これ。まあ見てみて」
オレはほおを膨らませて抗議したのだけれども、ユーンに軽く流された。いつものことなんだけど。