ローラ×ローラ
空は晴れ渡り、やわらかい日差しが差し込んでくる。
小春日和と呼ぶのにふさわしい、そんな昼下がりにもかかわらず、珍しく店内にお客様がいない。
いい気持ちになっていると、
「おーい! ローラ!! ローラ!!」
ドアを乱暴に開け、オレを呼ぶ声がした。
カランカランカランと、ドアベルも一緒になって騒ぎ立てる。
「はっ、はい! いっ、いらっしゃいませ!!」
突然の来客に慌てて顔を上げると、そこには見慣れた顔があった。
「……って、なんだ。ユーンか。どうしたの、そんなに慌てちゃってさ」
思わずオレはため息をつく。お客様だと思って慌ててしまい、なぜか損した気分にさせられた。
彼女の名前はユーン。女性専用カフェであり、女性冒険者斡旋場でもある「コンフィチュール」の主人(マスター)だ。
といっても、この店が繁盛しているのは全部、もう1人の社員であるウレアンのおかげだ。主人であるにもかかわらず、残念ながらユーンはこの店の洗練された雰囲気と合っていない。
「なんだ、ユーンか……って。何よ。せっかくアンタのためにでっかい依頼を取ってきてやったのに」
口をとがらせながら、依頼書を目の前に突き付ける。
「でっかい依頼!?え、マジで!」
思わず、カウンターから身を乗り出してしまった。その様子を他の子たちにクスクス笑われてしまう。恥ずかしくて、思わず顔が赤くなる。
「あはは、感謝しなさいよ。じゃあ行こうか。奥の部屋でクエストの詳しい説明するわ。ヴィオレット、あとは任せたね」
この店は女性専用で、アルコールの代わりにお茶とお菓子が出てくること以外は一般の酒場と何も変わらない。にもかかわらず、冒険者への依頼斡旋業務ができるのは、社員のユーンとウレアン、バイトでは元冒険者のオレしかいない。ユーンとウレアンは依頼を取りに行ったり、他の酒場を回ったり、何かと外回りが忙しい。男であるにもかかわらず、元冒険者の重宝されるのは当然なのかもしれない。オレが二人に拾われたころは、パティシエのヴィオレットも経理のドロワットもいなかった。店を回すのがさぞかし大変だったにちがいない。
早いもので、オレがここに来てから2年になる。コンフィチュールでバイトしながら、たまに冒険者として依頼をこなすという生活は、それはそれで楽しい。だけど、騎士にあこがれ、九歳で屋敷を飛び出し、剣の腕を磨き続けていたのに。どうしてこうなったのかな、と思うこともある。
……まあ、原因は自分にあるんだけど。