ローラ×ローラ
いくら目をつぶっても、昨日のおじ様の言葉を思い出してしまう。このままでは仕方ないので、安眠のアロマを焚くことにする。今日は、昨日の分まで政務がたんと残っている。休めるのなら一分一秒でも休みたい。
手探りで明かりをつけると、ちょうどそこに一匹の蛇が部屋に入ってくるのを見つけた。ソフィーさんの使い魔だ。口に封筒を咥えている。
「リンドブルム、おいで」
そう呼びかけると、リンドブルムは身体を可愛くくねらせ、私の膝に乗ってきた。ぬるぬるっとした動きがかわいらしい。その愛らしい仕草に私の気持ちが少しだけ癒された。エメラルドのような首筋をそっと撫でると、リンドブルムは嬉しそうに身体をよじらせた。
「ありがとうね、ソフィーさんに宜しくお願いします」
封筒を受け取ると、リンドブルムはチロッと舌を出し、ソフィーさんのもとへ帰っていった。
「これは……灰紙。どうしたのでしょう」
灰紙とは名前の通り灰でできた紙であり、開封してから時間がたつと自動的に灰となって消えてしまう。機密文書によく使われるマジックアイテムだ。
おそらくは昨日のこと、何か言いにくいことがあるのかな、と私は首をひねった。
灰紙で書かれた手紙なので、封を切った以上、いつまでもぼうっとしているわけないいかない。とりあえず、読むことにした。
――前略 親愛なるローラさんへ
昨日はあんなことがあって大変辛い思いをされたでしょう。怖かったでしょう。私もローラさんが心配で一睡もできませんでした。
ローラさんにはお身体に何かおかしいところはありませんでしたか。それでなくとも、女王代行の任務は忙しく大変です。最近は、お顔もすぐれないように思います。今日はゆっくり休んではいかがでしょうか。その分の仕事は私もお手伝いさせていただこうと思います。その場合には、父にも伝えておきます。
昨日の毒殺未遂事件について、私なりに調べてみました。まず、あの毒は私の工房で保管していたもので、調べてみたところ、何者かに持ち去られていたことがわかりました。当然のことながら、私の工房は警備兵がいるはずなのですが、彼らは私以外に出入りした者を見ていないということでした。
父にそのことを報告したのですが、イワンおじ様のワインに誰が毒を入れたのか、父は詳しい捜査を拒んでいます。私の工房から毒が出たことはくれぐれも他のものに言ってはならないと強く念押しされました。
こんなこと言い訳がましいことを書いても、ローラさんは私が関与したと思うでしょう。それは仕方がないことです。
それでも、どうか私のことを信じてください。私は何があっても貴女の味方でいます。
今日のことはくれぐれも私とローラさんだけの秘密にしてください。
くれぐれもお身体をご自愛ください。
ソフィーより かしこ――
ソフィーさんの繊細な文字が、ところどころ震えている。そんな文字を見ているだけで、彼女の痛みが伝わってくる。私はそっと目を伏せた。
「……私のことを疑っても、嫌いになっても仕方がない。私はそんなことを考えていないのに……どうしてこうなってしまったのでしょう」
この想いを伝えないと。引き出しから灰紙を取り出し、私は筆をとった。