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テポドンの危機

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そういいながら必死で跳ね除けようとする洋平だが、連中はそのまま引きずり出そうとしている。手には拳銃らしきものまで持っているようだ。
・・俺はこのまま拉致されるのか・・
そんな思いが一瞬、彼の頭をよぎったが、それを跳ね除けるようにやけくそに動いた。蹴飛ばした洋平の足が誰かの向こう脛あたりに当たった。すると意外と相手の態度が一瞬、ひるんだ。後ろから首を抱えていた男の足の甲を思いっきり踏んでやった。
「首はだめだというのに。まだ治っていない。」そういいながら、逆肘鉄で、相手のわき腹を突いた。
洋平はこれでも学生時代、合気道の真似事をした経験がある。勉強ばかりではだめ、体も鍛えなければ、そう思って仮入部したが、軟弱な彼は半年と持たなかった。それでもいざというとき意外と、彼の体は敏捷に動いた。勢いに乗った洋平は、
「お前たちこのやろう。俺の大事な首根っこを捕まえやがって。なめるなよ。」
結構、威勢のいい顔つきになったので、男たちはひるんだ。ついでにカンフー映画の真似事で、なにやら分けのわからないポーズをとった。そのとき隣の部屋から、物音を駆けつけて、飛鳥が顔を出した。
「洋平さん、どうしたの? きゃー!」
怪しげな連中を目の当たりにして、飛鳥は悲鳴を上げた。その声にもっと驚いたのは3人の男たちだった。彼らはあわてて廊下の端の非常階段から表に飛び出していった。一瞬寒い冷気が廊下を駆け抜けたが、後には不思議な静けさが漂った。
「どうしたのですか、皆さん。」
一瞬、遅れて硝 が少し間の外れた声で、ドアーを開けた。
「だ、大丈夫。何でもない。」
洋平が、息を切らせながらそういうと、
「たった今、拉致されそうになったのよ。洋平さん。」
飛鳥が小さな顔を硬直させて、そう言った。

警備中の警官隊の一部が駆けつけたのは、それから三十分ほどたった後だった。
「それで怪我はありませんでしたか。」
駆けつけた3人の警官のうち、した腹の突き出た小太りの男が言った。
「怪我はありません。それより、早く連中を探してください。このままでは。いつまた狙われるか危なくて、夜も寝られませんよ。」
洋平が、少し不満げにそういうと、
「わかっています。今、全力で捜査中です。一刻も早く捕まえたいのですが,なにぶんあまり公にできません。しかも発砲でもあったらみなパニックになりますので、捜査は極秘で進めています。どうか木下さんもこの件はしばらく内密に…」
中肉中背のいかにも几帳面そうな警官が言った。
「内密って言ったって、僕はこうして実際に被害にあっているわけだし、今度誰かがやられたら大変でしょう。」
洋平が以外に冷静な意見を言うと、
「全力を尽くしますから、どうかよろしく。」
いかにも恰幅の良い警部らしき男が言った。

翌朝、空は青く晴れ渡った。昨晩、フロントから警察に連絡をし、あわてて何人かの警官が駆けつけたが、もう3人の姿は立ち去った後だった。そして、依然彼らの消息はわかっていない。白い雪が、洋平たちを乗せたいつものバスから見える12階建ての建物を覆っていた。洋平は、一際高い建物の頂上を見上げた。
彼らを乗せたバスは、白い粉雪をはねて、いつもと変わらぬ様子でアリーナに向かった。


3月1日
試合開始。
第一戦は、中国とカザフスタン。いずれも強豪チームである。個人プレイのカザフか総合力でどのチームにも引けを取らない中国か、観衆は目を見張って試合を見つめた。前評判は昨年度優勝のカザフ。しかし、中国は昨年と比べさらに力をつけているようだった。前半は、やはり、カザフのスピードある個人プレイで一点選手。中国がこれを追う展開となった。ゲームの進展がとにかく速い。攻勢と守勢とがめまぐるしく交代する。そして、カザフのまだあどけなさの残る少女たちがパックをめぐって、勇ましい中国選手と奮闘している。危うい場面は何度もあった。身近で見るとパックの動きは実に精妙で,一瞬の間に選手たちのステイックの脇を通りすぎる。華麗なスケート裁きでこれについていくのはまさに至難の業。洋平は彼女たちのスケート捌きに思わず見とれた。そして一瞬の隙に、中国選手の打ったパックがカザフのデフェンス内に入り込んだ。攻撃に出ていたカザフの選手が一斉に自陣内に滑り込んだが、攻撃態勢からデフェンスに戻るまでにわずかな隙ができた。バランスの取れた中国選手の攻撃はこれを見逃さなかった。見事なパスワークでサイドからセンターにトス。ゴールキーパーと一対一となった選手の右サイドからの強烈なシュートがゴール右肩に見事に吸い込まれていった。
プーっというゴールを知らせるブザーの音と審判のホイッスルの音が同時になった。真っ赤なユニフォームを着た中国選手たちが一斉に寄り添いうれしい奇声を上げた。
試合はそのまま一対一のまま、抜きつ抜かれつの攻防戦で後半戦を終了した。結果は引き分け。そうほうに2点ずつが与えられた。

女子アイスホッケーの試合は、前半戦と後半戦に分かれ、それぞれ60分ずつ。各チームの出上選手は7名ずつで選手交替は自由である。体力の消耗が激しいスポーツのため、選手は頻繁に交代される。デフェンスが3人、オフェンスが3人。そしてゴールキーパーが一人。フェイスオフと言って、パックを中央のサークル内に落として、ゲームが始まる。パック以外の体に対する接触は女子のゲームではすべて反則となる。反則の種類が実に多く,ボデイチェック、キッキング、トリッピング、パックオンザハンド等。反則のコールがされるとその度合いにより、選手はペナルテイベンチに入ることになる。その間、代わりの選手のプレイが許される場合もあるが、そうでない場合、チームは選手を欠いてゲームを行うことになる。逆に相手チームはこのとき一斉に攻撃を加える。時にゴールキーパーも加わって、7人攻撃となることもあるが、これはパワープレイーと呼ばれている。相手チームの選手の数がショートになっているとき、パワープレイとなることがあるが、選手が一斉に攻撃姿勢となり、相手チームもまた一瞬にしてデフェンスに移る一連の動きは、見ていて圧巻。見事に訓練されたその動きは美しい景観でもある。ゲームの進行は極めて単純で相手ゴールに何点得点したかで、勝敗が決まる。得点の度に、ゴールを決めた選手の名前が呼ばれ、また反則の時も選手の名前と、反則の種類、そしてペナルテイの時間がコールされる。選手たちのめまぐるしい動き、攻守の攻防、そして見事なスケート捌きが入り混じった、スピード感のあるエキサイテイングなゲームである。洋平は、はじめ女性のゲームと思って高をくくっていたが、実際の試合となると、さらに動きが増し、彼女たちのけな気なパックに向かう姿にいじらしささへ覚えた。
午後、第二試合が行われた。

仕事が終わると午後九時頃から第一食堂で、皆と食事をするのが日課になった。その日の出来事や翌日の予定などを話し合うのが常だった。
「おいしいわ、これ…」
飛鳥が小さな顔で魚の煮つけを頬張り、頬を膨らませて言った。
今日のメインはこの辺りの近海で取れた魚と野菜の甘煮。そのほかに海老の唐揚げ、貝の蒸し焼きなどが並んでいた。誰もが自然と無口になっていた。
「…私、主人に申し訳ないですわ…」
作品名:テポドンの危機 作家名:Yo Kimura